隣の部屋が事故物件だったら、告知すべきか
では、今回のテーマである「隣の部屋が事故物件だった場合」はどうでしょうか。
ガイドラインでは、「賃貸借取引及び売買取引において、その取引対象ではないものの、その隣接住戸又は借主もしくは買主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分」は、自然死や日常的に発生し得る事故死以外の死が発生した場合や、自然死でも特殊清掃が必要であっても「裁判例等も踏まえ、賃貸借取引及び売買取引いずれの場合も、原則として、これを告げなくてもよい。ただし、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではない」とされています。
要するに、本来告知義務が必要な事故が起きたとしても、隣接住戸の場合には、告知義務が「原則として」ない、というのが、ガイドラインの考え方です。ガイドラインという性質上、ある程度、大枠でのメルクマークを定めるものですから、これは致し方ないといえるでしょう。いくつか関連する裁判例をご紹介します。
部屋の前の「共用部分」で自殺したという事例ですが、東京地判平成26年5月13日(ウエストロー・ジャパン)では、自殺によって次の入居者が入らないという影響があったとして、自殺した入居者の保証人に損害賠償を認めています。
本事例はA室、B室、C室と3室にまたがる「共用部分」での自殺であったため、3室ともに影響すると判断されたのだと思います。 仮に、単に隣接住戸だったとしても、出入り口が離れているなどの事情があれば、ガイドラインに準じて影響なし、損害なしという判断になるかもしれません。
また、他の部屋への影響自体は認めたものの、金額としては、その部屋内部で事故死が起きた場合と比べ、損害の程度は低いという判断も下しています。
他方、東京地判令和2年3月13日(LLI/DB判例秘書登載)では、隣接住戸で起きた自殺について、隣接住戸の所有者が自殺者の遺族を訴えたケースがあります。
結果は、悪臭等による治療のための医療費と、1ヵ月程度のホテル宿泊費については認めたものの、隣接住戸の影響により安い金額でしか売れなくなったという損害については、裁判所では認められていません。
裁判例では、ケースバイケースの判断であり、実際は「共用部分」「隣接住戸」と、杓子定規に考えているわけではなく、実際の影響度合いを考慮して結論を出していますが、ガイドラインと同様に、隣接住戸であれば、その影響の程度は、非常に小さいものだとの考えが、根底にあるといっても過言ではないかと思います。
経営者として「道義に反する」取引はしない
ガイドライン上、隣接住戸の事故物件では、原則として告知対象にはならない、という考え方になっています。もっとも、不動産の流通のために、一定の基準のガイドラインが必要だとはいえ、嫌がる方に騙し討ちのように不動産を売ったり、貸したりするのは、道義に反することだと考えます。
告知義務のガイドラインでは「原則告知不要」となっていますので、どうしても事故物件に関する物件が嫌だという方は、それらを十分に伝えたうえで、「事故物件等の影響がないこと」を貸主や売主に表明保証してもらう、という防衛策も検討してもよいかもしれません。
山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦
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