M&Aの買収金額はどう決めるのか?
M&A案件を評価する視点には以下のようなものがあり、これらを総合してM&Aの可否を検討します。
(1)シナジー効果の見極め
よく言われますが、自社と対象会社がM&Aでくっつくことにより、どのような統合効果が生まれるかということで、販売・営業面での売上増等のシナジー効果や生産・製造面でのスケールメリットやコストダウン効果、製品・サービス開発面での創発効果、購買面でのコストダウン効果、管理部門を統合することによるコストダウン効果等があります。
M&Aは買ってからでは遅いので、事前にシナジー効果を見極めることが重要です。
(2)負の遺産・資産のリスク
事前にデューディリジェンス(DD)を行いますが、そこで見つけられないような負の遺産や資産といったものもあり得ます。会計帳簿に現れない取引や契約等の存在がないかどうか、対象会社だけでなく取引先等にも確認を取る必要があります。
(3)買収価格の高低
実際の買収価格は、前述の企業価値をもとに交渉が行われます。もし他に買収したい企業があり、競り合いになった時に買収プレミアムが付くことになり、その分買収価格が釣り上がります。売り手は競り合いを好みます。仮に他社よりも高い価格でビッディングして、買収競争に勝っても、日本基準の財務会計ではのれん代の償却が必要となり、その償却費によって向こう数ヵ年利益が圧迫される可能性があります。
IFRS(国際会計基準)では、のれん代を償却しなくてもよいことになっていますが、会計ルールが将来変わらないとも限りません。高いのれん代を支払わないに越したことはありません。
(4)買収による人的資産やノウハウの消失リスク
買収されたことによりその企業から重要人物が去って行ったり、人物に紐づいた重要ノウハウが消失したりするリスクがありえます。事前に確定することは難しいのですが、そうしたリスクがあることも考慮に入れて置く必要があります。
(5)統合効果を発揮できる可能性
日本企業によるM&Aの9割は失敗と言われています。その理由は、PMI(Post Merger Integration)と呼ばれるM&A後の統合が効果的に行われないためです。統合効果を発揮できるようにするためには、M&Aした会社に乗り込んで行って、その会社を統治・改革できる人材が必要です。
カルロス・ゴーンはルノーから日産に乗り込んできて、短期間のうちに日産を高収益企業に変身させました。一般に日本企業にはこうした統治・改革できる人材が不足しています。
日本電産が他の小型モーター企業を買収しても成功を収めているのは、わずか1年でその企業を収益体質に転換できるからです。M&Aに積極的に取り組むのであれば、そうしたPMIを成功させる人材・ノウハウが必要でしょう。
(6)競合他社に買収されるリスク
買収するかしないかの判断を行う際に、仮に自社が買収しなかった場合、競合他社に買収されて、その結果不利になるということもありえます。限られたパイを奪い合うような間柄の場合は、そうしたリスクも検討しておく必要があります。
M&Aによるメリットとリスクを多角的に評価する
井口 嘉則
株式会社ユニバーサル・ワイ・ネット 代表取締役
オフィス井口 代表
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