やりやすくなったM&Aを活用する
かつては企業文化が違うなどの理由で忌避されてきたM&Aですが、近年は統合メリットの活用や多角化を狙って国内で毎年2,000件から3,000件と増加傾向にあります。特に2019年度では初めて4,000件を突破しました。
M&Aを類別すると、IN-INと呼ばれる日本企業同士のM&Aが7割以上を占め、次いでIN-OUTと呼ばれる日本企業による外国企業へのM&Aが2割程度、残る1割以下がOUT-INと呼ばれる外国企業による日本企業へのM&Aとなっています。
IN-INのM&Aが増加している背景には、(1)国内市場の成熟化と(2)オーナー経営者の高齢化があります。
(1)国内市場の成熟化
少子高齢化、経済成長率の鈍化により国内市場の伸びしろが少なくなり、パイの奪い合いで価格競争が激しくなり、収益性が低下しました。その結果、企業同士が合併したり買収したりすることで生き残りを果たそうとしています。
例えば鉄鋼メーカーは、今では高炉大手は日本製鉄グループとJFEグループ、神戸製鋼等3社に絞られてしまいました。製紙メーカーも合併を繰り返し、大手は王子製紙グループ、日本製紙グループ、段ボールのレンゴー等にまとまりました。
(2)オーナー経営者の高齢化
日本経済の成長期に起業したオーナー経営者も高齢となり、次世代に事業継承が必要となっていますが、親族や社内に継承者がいない等の理由で、会社を他企業に売却するという例が増えて来ています。
最近話題を呼んだ例としては、2019年に健康食品大手のファンケルがキリンホールディングスと資本業務提携したことでしょうか。ファンケルは池森会長が起業した典型的なオーナー企業でした。
中小企業庁の調査では、75歳を超える中小企業経営者は、2025年までに約245万人、うち半数は後継者が未定とのことなので、事業承継的なM&Aも増加すると予想されます。
IN-OUTの案件の増加は、日本企業の海外進出があります。自動車や電機などは早くから海外進出していますが、近年多いのは食品や飲料等のもともと国内市場中心に事業展開してきた業種・業態です。
例えば、アサヒグループホールディングスは2019年に世界ビール最大手のアンハイザー・ブッシュから豪州の全事業を買収しました。今後も内需型企業の海外展開は続くでしょうから、IN-OUTも続くものと思われます。
リストラの90年代、2000年代を乗り越えてキャッシュリッチになった日本企業は、M&Aの資金は潤沢になっていますが、景気動向との関係でいうと、景気後退局面では、買い手側の収益力が下がるため、買い控えが起きやすくなります。
M&Aを目的別に捉えると、「アンゾフのマトリックスを活用して成長の種を探す」で見たアンゾフのマトリックスの4象限でいうと、(1)既存の国内市場で規模の経済を追求する市場浸透型のM&A(鉄鋼や製紙業界の例)や、(2)海外市場に進出する際に現地の企業を買収して進出する市場開拓型のM&A(アサヒの例)、(3)既存市場に新しい商品・サービスを提供するための新製品・サービス開発型のM&A(キリンとファンケル)、(4)多角化のためのM&A(富士フイルムによる製薬の富山化学の買収)等いろいろなタイプのM&Aがあり得ることが分かります。
既存事業・新規事業ともにM&A手法が使える