(※写真はイメージです/PIXTA)

認知症の予備軍とされている「軽度認知障害(MCI)」は、放置すれば高確率で認知症に移行することが分かっています。しかし、早い段階で診断を受け、対策を講じれば認知症の発症を防いだり、進行を遅らせたりすることが可能です。MCIが疑われるサイン、認知症への移行を防ぐ研究について見ていきましょう。

MCIが疑われる兆候

それでは、MCIはどのようなことがきっかけで疑われるのでしょうか。一般的には次のような事柄が、MCIの兆候とされています。

 

●本人や家族からもの忘れなどの訴えがある

●目立つような日常生活活動上の問題がない

●年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する

●正常とはいえないが、認知症ではない

 

当院では、問診にて次の項目に該当し、かつ認知症やそのほかの疾病による記憶障害ではないとされる場合は、MCIの疑いが強いと判断しています(山口晴保研究室版)。

 

□もの忘れはあっても一人暮らしをするにあたり手助けはほぼ不要

□買い物に行けば、必要なものを必要なだけ買える

□薬を自分で管理して、服用する能力が保たれている

 

■「小銭を使わなくなった」「水出しっぱなし、電気つけっぱなし」等も注意

例えば、日常会話のなかで何度も同じ話をしたり、ものの名前が出てこず「あれ」「これ」で話をしたり、といったことが本人も家族も困惑するほど繰り返されるような場合は、もしかしたらMCIのサインかもしれません。日常動作なら、家電の操作にまごついたり、店でお金を払うとき小銭を使わなくなったりといったことが続くとMCIの兆候といえそうです。水を出しっぱなし、電気をつけっぱなしということも、MCIにはよく見られるとされています。

 

意欲面では外出が減ったり、趣味が楽しめなくなったり、服装が無頓着になるということも挙げられますが、こうしたことはうつ病やうつ状態などのほかの疾患でも起こり得るので、これだけで決めつけることはできません。

 

MCIの診断については、世界的にまだ検討の途上にあるといっていいでしょう。

 

2016年7月にカナダのトロントで開催された国際アルツハイマー病会議(AAIC)では、新しい観点から作られた早期発見のためのチェックリストが発表されるなど、早期発見も含め、尺度づくりはこれからの動きが期待されます。

認知症移行の予防①コグニサイズのすすめ

MCIから本格的な認知症への移行予防に関しても、世界で研究が進められています。国内で比較的よく知られているものに、国立長寿医療研究センターが開発、普及推進している「コグニサイズ」があります。

 

コグニサイズとは、運動と認知課題(計算やしりとりなど)を組み合わせた認知症予防を目的とした取り組みの総称を表した造語です。英語のcognition(認知)とexercise(運動)を組み合わせてcognicise(コグニサイズ)といいます。

 

簡単に言えば、頭と体を両方同時に働かせるエクササイズです。例えば、足踏み運動をしながら計算問題を解く、両手両足を一定のルールで動かしながら文章を読むといったことです。

 

コグニサイズは、基本的にはどのような運動や認知課題でも構いませんが、次の内容が考慮されていることが前提とされています。

 

●運動は、全身を使った中強度程度の負荷(軽く息がはずむ程度)がかかるものであり、脈拍数が上昇する(身体負荷のかかる運動)

 

●運動と同時に実施する認知課題は、運動の方法や認知課題自体をたまに間違えてしまう程度の負荷がかかるもの(難易度の高い認知課題)

 

つまり、何も考えず楽にできてしまうような内容ではコグニサイズとはいえないということです。「脳トレ」「頭の体操」などとよくいわれますが、身体にも脳にも多少の負荷をかけて「鍛える」ことが大切というわけです。

 

コグニサイズの目的は、運動で身体の健康を促すと同時に、脳の活動を活発にする機会を増やし、認知症の発症を遅延させることです。同じことを何度も繰り返せば、誰でも慣れてきて楽にできるようになりますが、そのぶん脳への負担は減っていきます。目的は、コグニサイズの課題自体がうまくなることではありませんので、課題に慣れ始めたら内容を変えていくことも求められます。「課題を考えること」自体も脳にとっては刺激となります。

 

できれば一人ではなくグループでコグニサイズを行い、間違えたりしながらも、笑ったり周囲と話したりして楽しんで行うとベターです。

認知症移行の予防②FINGER研究

近年の特筆すべきものに「FINGER研究」という研究があるので簡単に紹介しておきます。

 

FINGER研究は、フィンランドを中心とする研究チームが、運動、食事、認知トレーニング、健康管理などの複数の働きかけを組み合わせた、いわゆる「ライフスタイルの改善」を行うことで、MCIの改善、すなわち認知症の予防に効果があったことを確認したものです。2年間にわたり、MCIと診断された1260人を対象に行われた大規模な研究で、2015年に有名な英国の学術論文誌Lancetに掲載され、その年、最もインパクトがあった論文として評価されました。

 

ライフスタイルの改善について、概要を記すと次のようになります。

 

●食事指導

塩分や糖分を控える。野菜や果物、全粒穀物製品、低脂肪乳、肉製品などを取ること。週に2日は魚を取ることなど

 

●運動指導

週3〜5回の筋力トレーニング、有酸素運動を行うなど

 

●認知トレーニング

記憶力ゲームを週3回行うなど

 

●健康管理

血圧、体重、BMI、身体機能の測定。健康相談など

 

 

この研究報告の内容が、今後の認知症予防における実践的なモデルになることが期待されています。

 

 

旭俊臣

旭神経内科リハビリテーション病院 院長

 

 

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※本連載は、旭俊臣氏の著書『増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

旭 俊臣

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本では高齢化に伴って認知症患者が増えています。罹患を疑われる高齢者やその家族の間では進行防止や早期のケアに対する関心も高まっていますが、本人の自覚もなく、家族も気づいていない「隠れ認知症」についてはあま…

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