(※写真はイメージです/PIXTA)

一見、認知症かな?と思うような症状でも、調べてみると認知機能の低下ではなく、意識障害によるケースもあります。本稿では、認知症と間違えやすい病気として「せん妄」「うつ病」について見ていきましょう。認知症の専門医・旭俊臣医師が解説します。

せん妄やうつ病による症状なら、改善できる可能性大

高齢になるとさまざまな病気のリスクが高まることは周知のとおりです。それは認知症に限ったことではありません。一見、認知症かなと思われる症状を呈していても、調べてみると認知機能の低下ではなく、意識障害によるケースもあります。意識障害とは簡単にいえば、意識がもうろうとして、思考力や判断力が鈍っている状態を指します。また、うつ病やうつ状態などで脳の活性が低下しているケースもあります。

 

ここで大切なのは、認知症であってもそうでなくても、本人が生活に支障をきたし、家族がフォローに困るような症状は放っておかないということです。特に次に挙げる病気は、医療機関で適切な治療を受けることで劇的な症状の改善が見込めますので、家庭で抱え込まないようにしましょう。

せん妄

■症状が急に現れるのが「せん妄」、徐々に出始めるのが「認知症」

せん妄とは意識障害の一種であり、認知症ではありません。せん妄ではぼーっとして受け答えが鈍く、家の中を歩き回ったり、タンスの引き出しをかたっぱしから開け、中身を出してしまったりなどの無意味な行動や作業を繰り返します。ときに前触れもなく興奮状態になる場合もあります。

 

こうした症状は認知症でもよく見られますが、認知症は症状が少しずつ出始め、長期間にわたりその頻度や深刻度が高まっていくのが典型的な症状の現れ方です。一見、認知症かな?と思うような症状でも、それが急に現れた場合は、認知症ではなくまずはせん妄を疑って医療機関を受診することが大切です。

 

■せん妄の誘因はさまざま

せん妄は発熱や身体の痛み、便秘、睡眠不足などが誘因となり起こることが多々あります。また、薬がせん妄を引き起こすこともしばしばあります。風邪薬や胃薬、かゆみ止めといったごくありふれた薬から、頻尿治療薬、睡眠薬、抗不安薬など、医療機関にかかって処方される薬まで、誘因となり得る薬は多岐にわたります。

 

せん妄が疑われる場合、医療機関では患者の身体に痛いところはないか、食事や水分は十分取っているか、熱はないかなど全身をチェックし、服薬状況も確認したうえで、せん妄の誘因になっている可能性があるものを取り除き様子を見ます。それで劇的に症状が軽快することも少なくありません。適切な診断と対応を行えば、せん妄は治療が可能です。

 

なお、せん妄はすでに認知症にかかっている人も起こすことがあります。この場合、本人は誘因となり得る発熱や痛みなどの症状を訴えないことも多く、家族や身近な人が「食欲がない。よく眠れていない。お腹が張っているようだ」と気づいて受診に至ることがよくあります。認知症の人のせん妄も、誘因がはっきりすればせん妄になる症状は治療可能ですので、これも認知症の症状だろうと思い込まず、主治医と相談することが大切です。

うつ病やうつ状態

■「時間や場所、周囲の状況が分かる」なら認知症ではないが…

うつ病の場合も、やる気がなくなる、身のまわりのことができなくなるといった認知症でもみられる症状が現れます。ただし、その人がうつ病だけを患っているならば、認知症と違って、時間や場所等、周囲の状況まで分からなくなってしまうということはまずありません。

 

■認知症の発見が遅れるケースも珍しくない

難しいのは、認知症の初期にうつ状態が見られることがあり、うつ状態から認知症になっていく場合が少なくないことです。

 

この場合はどこまでがうつ状態でどこから認知症かという区別が難しく、最初にかかった医療機関でうつ病と診断されてからずっとその治療を受けていたが、いつの間にか認知症を発症しておりその発見が遅れてしまったというケースも珍しくありません。逆に、うつ病による症状なのに、認知症と診断されてしまうケースも起こっているのが現状です。

 

 

旭俊臣

旭神経内科リハビリテーション病院 院長

 

 

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※本連載は、旭俊臣氏の著書『増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

旭 俊臣

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本では高齢化に伴って認知症患者が増えています。罹患を疑われる高齢者やその家族の間では進行防止や早期のケアに対する関心も高まっていますが、本人の自覚もなく、家族も気づいていない「隠れ認知症」についてはあま…

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