認知症リハビリは「回想法」「RO」などが代表的
認知症リハビリはどのように行われると良いのでしょうか。
リハビリに取り入れる具体的な療法やトレーニング法に統一されたガイドラインはなく、施設ごとの判断に任されているのが現状です。
一般的に、国内で広く「認知症リハビリ」として行われている療法を図表1に列記します。
これらのリハビリのなかから本稿では、一般の方が自宅でのケアにも取り入れやすいと思われる方法を2つ、「回想法」と「RO(リアリティ・オリエンテーション)」を紹介します。いずれもまず、医療・介護施設での施設リハビリとして行う場合の概要を述べます。
回想法
■回想法の概要
回想法(Reminiscence)は、1963年に米国の精神科医バトラーが提唱した療法です。
彼によれば、人間は高齢になると過去を回想する頻度が高まります。そうすることで自分の歩んだ道を振り返り、整理して人生の価値観を見いだそうとするのです。
回想法は、治療者が高齢の認知症患者の長い人生の思い出を傾聴し、共感して受け入れながら、適切な問いかけなどをはさむことで話を引き出します。それにより認知症患者の心理的な安定を手助けする方法です。
当初は米国でうつ病患者の治療として行われていましたが、記憶障害の改善にも一定の成果が見られたことを受け、1970年代後半からは、米国やカナダで認知症患者にも対象が拡がりました。日本には1980年代に導入され、当院でも1994年より通所リハビリに導入しています。
■昔の出来事、思い出を語ることで脳を刺激
回想法は、アルツハイマー型認知症でも比較的覚えていることの多い長期記憶にフォーカスします。昔の出来事、思い出を呼び覚まし語ることで脳を刺激するのです。施設では、グループワークとして数人~10人程度で行うことが多いのですが、参加者同士で話したり聞いたりすることは、短期記憶や集中力の改善にも効果的です。
当施設でのやり方を次に示します。図表2のように、患者の子ども時代~青春時代(ここでは1920~1940年代)の思い出につながるテーマを準備し、各回数人~10人程度が円座になり、それに対しスタッフが2、3人つきます。うち一人が進行役となり、患者間の交流を促します。ほかのスタッフは言語表現が難しい患者を中心に巡回し、発話を引き出したり傾聴したりします。
RO(リアリティ・オリエンテーション)
■ROの概要
ROは現実見当識訓練(Reality Orientation)の略で、時間、場所、人物などの見当識障害に対し改善を促すリハビリです。
もともと1960年代半ばに、米国にて重度の脳損傷を負った患者に用いられた方法で、その後普及が進み認知症患者にも一定の効果が認められています。
■今日の日付や曜日、現在時刻を答えることで見当識をトレーニング
手術を受けた患者が麻酔から覚めるときに、看護師さんが「お名前は?」「今どこにいるか分かりますか?」などの質問をして見当識を確かめることは、どの医療機関でも日常的に行われています。ROはまさにこのことで、見当識障害(時間や場所、人物の認識といった基本的な情報を忘れること)がある患者に基本的な情報を与えたり、質問して答えてもらったりすることで見当識を高めるのです。
認知症患者の施設リハビリとして行う際は、見当識の状態に応じて数人のグループに分けます。大きなカレンダーや大きな文字盤の時計を用意して、「今日の年月日」「今日の曜日」「今の時刻」などをメンバーに言ってもらいます。全員で読み上げることもありますし、指名して答えてもらうこともあります。
指名して答えがなかなか出てこない場合は、「昨日はX月X日でしたね」といったヒントを与えます。
正解したら「そうですね。今日はX月X日ですね」と繰り返します。間違っていても「違います」と否定はせず、「ありがとうございます。X月X日ですね」とさりげなく訂正し、全員で繰り返します。
その後、「今日は体育の日ですね」といったように、その日にちなんだ事柄を続け、話題を広げることもあります。「子どもの頃、体育の授業でどんな種目が好きでしたか?」など、回想法へと移行します。
見当識「訓練」とありますが、無理に言わせたり、機械的に繰り返したりすることが目的ではありません。患者が苦痛にならないよう、穏やかなムードのなかで行うのがポイントです。
旭俊臣
旭神経内科リハビリテーション病院 院長
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