(※写真はイメージです/PIXTA)

認知症は進行性の疾患であり、発症すれば一生付き合っていく必要があります。認知症のなかでも多くを占めるアルツハイマー病について、進行を遅らせる薬の開発は進められていますが、根治を目指せる治療法は現代医学をもってしても確立されていません。認知症を予防するには、どうすれば良いのでしょうか? 認知症の専門医・旭俊臣医師が解説します。

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認知症予防のためにできること

まずおすすめしたいのが、有酸素運動です。有酸素運動とは呼吸によって常に酸素を取り込みながら行う持続的運動で、具体的には競歩、ジョギング、体操、ダンス、テニス、縄跳び、自転車こぎなどです。運動の回数と時間としては1回30~40分、週3~4回行うといいでしょう。

 

第二に、知的活動として囲碁、将棋、合唱、絵画、日誌・予定表の作成などを行うこと。

 

第三に、社会活動として地域で行われている体操教室、お茶会、ボランティア活動などに参加して交流をすること。

 

食生活の面では、魚、野菜を摂取し、動物性脂肪や糖分、塩分を減らすことが重要です。

 

EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)を含むサンマやイワシなどの青魚は認知症予防に効果的です。またポリフェノールの多い少量の赤ワインや緑茶なども効果があるとされています。

 

最後に、朝田教授(当時筑波大学)の研究によれば、30分以内の昼寝は認知症予防に良いと考えられています。1時間以上とることは夜間の睡眠の質を妨げるといわれていますので、時間には注意しましょう。

 

以上のような認知症の予防法は、全国各地で行われるようになってきました。これらは認知症予防だけではなく、寝たきり予防にもつながります。

認知症予防は世界的な関心事

認知症の発症や進行を予防することの重要性は、国の認知症政策でも明確にされています。

 

近年、認知症に関する社会的関心は国内のみならず世界的に高まっており、世界各国でさまざまな研究が進められています。特に認知症の「予防」については、国内でもテレビや雑誌、インターネットなどでさまざまな情報が発信されていることからも、とりわけ関心の高さがうかがえます。

 

現時点において認知症の発症を完全に防ぐための方法は確立されていませんが、「発症を遅らせる」または「進行を緩やかにする」方策については、研究結果などから知見が集積されつつあります。

 

それらを受け2019年にWHO(世界保健機関)は、認知機能低下および認知症のリスク低減に関するガイドラインを発表しました。日本でもこれを邦訳し、2019年度の老人保健健康増進等事業「海外認知症予防ガイドラインの整理に関する調査研究事業」において作成しています。

 

このWHOのガイドラインでは、認知機能の低下や認知症の発症リスクについて現在知られている認知機能低下の最も有力な危険因子は加齢としたうえで、最近の複数の研究から不活発なライフスタイルや不健康な食事、喫煙や過剰な飲酒などの生活習慣に関連する因子が認知機能低下や認知症と関連するとしています。

 

また、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、抑うつなど一定の病態が認知症の発症リスクと関連することや、その他の危険因子で介入可能なものとして、社会的孤立や知的な活動の低下などがあるとしています。

 

つまり、因子によっては介入を防ぐことにより認知機能の低下や認知症発症を遅らせるといった「認知症予防」が可能であることを明言しています。

「予防」に踏み込んだ新政策、「認知症施策推進大綱」

厚生労働省が2019年に発表した「認知症施策推進大綱」では、「予防」と「共生」を両輪とした施策の推進がうたわれています。

 

認知症施策推進大綱は、2012年の「認知症施策推進5カ年計画」(通称:オレンジプラン)、2015年の「認知症施策推進総合戦略」(通称:新オレンジプラン)の後継に当たり、日本の認知症政策における3つ目の戦略に位置付けられています。

 

これまでのオレンジプラン、新オレンジプランでは認知症の早期発見と適切なケアを目指し、「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会」を実現することを目的に、厚労省や関連省庁が中心となり策定されました。これをもとに後述のサポート医制度など、地域ごとに認知症医療やサポート体制の整備が進められてきました。

 

認知症施策推進大綱は省庁の壁を超え、医療や介護以外の生活全般にわたる関係者の参画連携を目指し、各領域の有識者から構成された認知症施策推進関係閣僚会議が中心となり策定されました。

 

そして認知症施策推進大綱では新たに「予防」を重点施策の一つとしています。予防と聞くと認知症にならないようにするという意味にとらえられがちですが、現状認知症の原因は一部の疾患(水頭症や甲状腺機能低下症など)を除き、明らかになっていません。認知症の多くを占めるアルツハイマー型認知症も、こうすればかからないという予防策は今のところ存在していません。

 

したがって、ここで国がいう「予防」とは発症させないという意味ではなく、WHOガイドラインにもあるとおり、「認知症の発症を遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」との意味になります。

 

認知症予防は次の3段階があるとされています。

 

一次予防:活動的な状態にある高齢者を対象に、認知機能を含む生活機能の維持・向上に向けた取り組みを行うものであるが、とりわけ高齢者の精神・身体・社会の各相における活動性を維持・向上させることが重要

 

二次予防:軽度認知障害・初期の認知症の高齢者を早期発見し、早期に対応することにより状態を改善し、要支援・要介護状態となることを遅らせる

 

三次予防:認知症の診断を受けている高齢者を対象に、要介護状態の改善や重度化を予防する

 

まとめると、一次予防は「発症遅延、発症リスク低減」、二次予防は「早期発見・早期対応」、三次予防は「重度化予防、機能維持、行動・心理症状の予防・対応」といえます。

 

これらを踏まえ、認知症施策推進大綱では、認知症施策の具体的な取り組みとして次の項目が挙げられています。

 

●普及啓発、本人発信支援

●予防

●医療/ケア/介護サービス/介護者への支援

●認知症バリアフリーの推進/若年性認知症の人の支援/社会参加支援

●研究開発/産業促進/国際展開

 

なかでも、予防の取り組みとして大綱には、認知症予防に資する可能性のある活動の推進(運動不足の改善、糖尿病や高血圧症等の生活習慣病の予防、社会参加による社会的孤立の解消や役割の保持等)、予防に関するエビデンス(科学的証拠)の収集の推進などが挙げられています。

 

当院もこの流れを受け、地域包括支援センターと連携し、新たなアプローチによる「予防」目的のリハビリを実施しています。

 

 

旭俊臣

旭神経内科リハビリテーション病院 院長

 

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※本連載は、旭俊臣氏の著書『増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

旭 俊臣

幻冬舎メディアコンサルティング

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