(※写真はイメージです/PIXTA)

認知症は進行性の疾患であり、発症すれば一生付き合っていかなくてはいけません。ただし、診断や治療の開始が早期であればあるほど、症状の進行はゆるやかになることが分かっています。認知症を早期発見するには、どうすればよいのでしょうか? 認知症の専門医・旭俊臣医師は、2017年に施行された改正道路交通法による「高齢者の認知機能テスト」も早期発見の機会になり得ると考えます。

高齢ドライバーによる事故が社会問題化

■高齢ドライバーの増加≒認知症ドライバーの増加と言っても過言ではない

日本における高齢ドライバー数は、高齢化に伴い増加し続けています。

 

「平成27(2015)年警察白書」によれば、65歳以上の運転免許保有者は1638万人となっており、65歳以上人口(総務省「平成26(2014)年人口推計」より3300万人)の49.6%、約半数にのぼります。なお、全免許保有者のなかでの割合も19.9%、ほぼ2割に相当します。

 

認知症は、高齢になるほど発症リスクが高まります。よって、こうした高齢ドライバーの増加は、認知症ドライバーの増加と言い換えても過言ではないでしょう。

 

■認知症患者の11%が自動車を運転、6人に1人が事故を起こしていると判明

65歳以上の認知症患者数と有病者の推計を示した2060年までのデータがあります。これは久山町研究といって、国内で長期の縦断的な健康調査事業を行っている福岡県久山町の住民を対象にした研究データですが、これによると認知症は2060年までに約20%、有病率が上昇するとの試算が出ています。

 

自動車の運転において、認知機能が低下していれば当然、事故を起こすリスクは上昇します。日本老年精神医学会が2009年に行った全国調査によると、運転している認知症患者の6人に1人が交通事故を起こしていたことが明らかになっています。全国規模の運転実態が明らかになったのはこの調査が初めてで、認知症患者の11%が運転しており、うち16%に当たる134人が運転中に事故を起こしていたことが判明しました。9割以上が自損・物損事故ですが、人身事故も数%起こっています。

改正道路交通法で「認知症を早期発見する機会」が増加

■75歳以上の免許更新では「高齢者講習、認知機能検査」を義務化

こうした調査や高齢者ドライバーによる事故が社会問題化していることを受け、周知のとおり2017年3月に道路交通法が一部改正されました。

 

主な内容としてまず、70歳以上の運転免許取得者には、免許証更新時に「高齢者講習」を受講することが義務づけられることとなりました。この講習は、視力や運転操作につき問題がないかを診断したり、実際に車を運転したりしながら、自身の運転技能についての認識・理解を深め、その後の安全運転に活かしてもらうことを目的としています。

 

さらに、75歳以上の人が免許証を更新する場合には、高齢者講習および認知機能検査(講習予備検査)を受けることが義務づけられました。認知機能検査とは、記憶力や判断力等の認知機能を簡易な手法で調べる検査で、その結果、「認知症の恐れ」と判定された場合に、医師の診断を受けることを義務化。認知症と診断されると免許取り消しか、停止になります。

 

なお、逆走などの違反歴がある場合は更新とは関係なく検査が課されます。

 

認知機能検査の主な内容は、

 

●時間の見当識能力の検査

●16種の絵を記憶して答える記憶の再生力検査

●白紙に指示した時間を時計で描く検査

 

であり、これらを点数化して記憶力や判断力を評価します。

 

認知機能検査の結果は合計点数に応じ、第一分類、第二分類、第三分類に分けられ、第一分類はすべて認知症の診断を要するとされ、専門医の受診が義務づけられることとなりました。

 

■2017年3月から5月末だけでも、1万人超が「認知症の恐れがある」と判定

なお、この改正道路交通法が施行された2017年3月から5月末までの間に、運転免許更新時などに「認知症の恐れがある」と判定された人は、警察庁のまとめによると1万1617人(暫定値)にのぼり、このうち8.5%の987人が医師のアドバイスなどで免許を自主返納したことが報じられました。当院のある千葉県でも、改正道路交通法施行後の認知症診断を要する高齢者数は、2017年単年で、10倍以上に激増する推計が出ています。

 

このことは、今まで認知症の症状を呈しながら受診に至らず診断がなされていなかった潜在的患者の、早期発見・早期ケアの機会が増えたことを示していると考えられます。

 

■ただし、運転を辞めてもらうタイミングにも配慮が必要

現代社会は、地域差はあるとはいえ車社会といえます。支援策が十分に整わないまま、運転免許を実質取り上げるような形になっては、本人はもとより、家族にも大きな生活不安を抱かせるだけかもしれません。

 

タクシー利用券やバス乗車パス等を支給するなど、地域の実情を考慮したうえでの交通支援策を打ち出す必要があるでしょう。

 

また、認知症の告知についてはさまざまな議論があります。運転免許証を返納することで、運転する喜びを奪われて、認知症の進行が加速するといった恐れすらあります。

 

さらに、これまでは症状が進行してから受けることが比較的多かった認知症の告知を初期・中期の人でもされるようになっていきます。「告知、即、絶望」とならないようフォローしていく必要があるでしょう。

 

 

旭俊臣

旭神経内科リハビリテーション病院 院長

 

 

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※本連載は、旭俊臣氏の著書『増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

旭 俊臣

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本では高齢化に伴って認知症患者が増えています。罹患を疑われる高齢者やその家族の間では進行防止や早期のケアに対する関心も高まっていますが、本人の自覚もなく、家族も気づいていない「隠れ認知症」についてはあま…

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