(※写真はイメージです/PIXTA)

「その場所にあるはずのないものが見える」。そう聞くと、多くの人は精神疾患や脳機能の異常、薬物による症状を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし何らかの疾患や異常がなくても、見えないはずのものが見えるという現象は起こりえます。知られざる「シャルル・ボネ症候群」について眼科医の平松類先生に聞いてみました。

見えないはずなのに「見える」患者さんたち

外来で診察をしていると、目がかなり見にくくなって視力も0.1程度しかない患者さんが、このように言うことがあります。

 

「先生、そういえば昨日モノが見えたんです。」

 

ちょっとうれしそうに、でもちょっと心配そうにお話をします。

 

変なことを話してしまっているのかな。ドラッグとか幻覚などと思われないかな。そう心配しながらお話ししているのが伝わります。ですから、

 

「そういうことはあるんですよ」

 

そうお話しするとほっと一息をつかれます。

 

見えないはずのものが見える。自分は変なことを言っているのか? 不安になって結局言いだせない患者さんもいます。家族には言わないでほしい、という患者さんもいます。医者にも家族にも言えない方もいるはずです。

 

そのため正確な統計もなく、視力が悪い患者さんの何%に起こる現象なのか?ということもわかっておらず、有症率は0.4~30%程度と非常に幅をもった研究結果が出ているのみです。

 

この現象は、発見した学者の名前にちなんで「シャルル・ボネ症候群」と言われます。視力が悪くて見えないはずなのに目の前のテレビが見える…というように、「現実として目の前に存在するものが見える」わけではなく、「そこに存在するはずのないものが見える」というのが特徴です。

 

シャルル・ボネ症候群の患者さんから体験談を聞くと、そこにあるはずのない物だったり、人だったりが見えることもあるようです。見える時間もまちまちで、ほんのちょっとの間だけ見えたという人もいれば、数日間にわたって見えていたというように時間が長いこともあります。

見えているのは「脳の電気信号」

では、見えないはずなのになぜモノが見えてしまうのでしょうか?

 

人間は目でモノを見ると思われていますが、正確には目から入った電気信号を脳で捉えることによってモノを見ています。目をつぶったときに虹のようなものが見えたり、頭を叩かれるとチカチカしたようなものが見えたり、ふらついて倒れそうなときにピカっと見えたりするのは、この脳の電気信号と考えられます。

 

シャルル・ボネ症候群の原因は正確にはわかっていないのですが、この電気信号のせいなのではないか?と考えられています。目が「見える」というほどの状態でない人が見えてしまうということは、「目の構造によってモノが見えている」とは考えにくい。それならば、消去法として「脳」が考えられるということです。

 

ではなぜ「見えない人だけ」に現実とは異なるものが見えてしまうのか? それは見えなくなってきているからこそ脳に正しい電気信号が送られずに、それまでの経験から勝手に画像を作り出してしまうのではないか?と言われています。

 

ただ、このシャルル・ボネ症候群自体があまり知られておらず、専門家でも3分の1の人が知らないという報告もあります。シャルル・ボネ症候群を持つ492人を対象とした研究でも、47%の患者さんが明確な説明をしてもらえずに悲しい経験をしたという報告があります。

 

上記のような事実を知っておくことで、家族もいぶかしく思うことがなくなるかと思います。

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※本記事は、最先端の「自分磨き」を提供するウェルネスメディア『KARADAs』から転載したものです。