末期がんで残りわずかな命となった元会社経営者
本田武さん(仮名/68歳)はがんで闘病生活を送っています。若いころにタイヤショップを開業。大型車などを得意として運送会社等へのタイヤ販売、タイヤ交換作業などで大きな富を築いてきたのでした。そんな本田さんには妻の美代子さん(仮名/65歳)と、結婚して近くに住む一人娘の百合子さん(仮名/40歳)がいます。
本田さんが仕事を引退したのは66歳の誕生日を迎えて間もないころ。前立腺がんの発覚がきっかけでした。会社を5,000万円ほどで売却し、退職金として2,000万円を受け取り、年金は夫婦合わせて月額30万円受け取ることができていたため、老後資金には余裕がありました。しかし、がんは発見時、すでに複数個所に転移し、進行が進んでしまっていたために、多額の介護費と医療費が必要な状態となっていたのでした。
「自分の命は残りわずかだろう……」そう感じていた本田さんでしたが、悩みがありました。それが妻である美代子さんとの確執です。本田さんは現役のころは子育てを美代子さんに任せきりにし、仕事や地域の経営者仲間の集まりに参加して夜中まで飲み歩いたり、複数の女性達と浮気をしたりするなど、自由奔放に過ごしてきました。家を守る美代子さんに対しては家政婦のような扱いをしており、会話は必要最低限です。
当時、そんな本田さんに美代子さんは、なにも言わずにいました。しかし病気がわかり、介護が必要になったときに美代子さんは、現役のころの本田さんの行いを許せず、本田さんに対して冷たくあたっていたのでした。
美代子さんは一切の介護を拒否するだけでなく、下半身の自由が利かなくなった本田さんが「書斎にある、書類を取ってほしい」と頼んでも応じようとはせず、完全無視。トイレに自分で行けなくなった本田さんの紙おむつを交換しようともせず、自分が交換する必要がないように何重にも重ねて汚物が漏れないようにし、すべてヘルパーさんに任せていたのです。
そんな本田さんを気遣い、時間を見つけては介護に寄ってくれていたのが一人娘の百合子さんでした。仕事と育児で忙しくしているなかでしたが、自分の介護に来てくれていたのです。残りわずかな命、自分を蔑ろにしている妻には一切資産を渡さず、すべてを娘に渡そうと考えたのでした。
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