デイケア施設でのリハビリの成果
■デイケア利用で認知症の進行抑制・症状軽減
現状、認知症リハビリが最も盛んに行われているのはデイケア施設ですが、その内容や頻度に統一されたガイドラインはなく、施設ごとの裁量で行われているのが実情です。しかし、当院の実績からも明確に通院治療のみよりもデイケアで通所リハビリを行うほうが認知症の進行の抑制と改善にも効果が現れています。
特に早期、認知症が軽症のうちからのデイケア利用は、その後の経過が良好であり、認知症の進行を遅らせ、また緩やかにできる効果が確認されています。このことは介助者にとっても大きなメリットです。
■デイケアにおける認知症リハビリの実例・効果
当院でのデイケアにおける認知症リハビリの実績を紹介します。
23人のアルツハイマー型認知症患者を外来通院のみのグループ(対照群)6人、デイケア(通所リハビリ)群8人、デイケア(通所リハビリ+回想法)群9人の3群に分けて週2回、3ヵ月間、合計25回所定のプログラムを実施しました。
通所リハビリ群ではデイケアプログラムとして体操、ゲーム、食事、作業活動、音楽、合唱など計6時間、通所リハビリ+回想法群では、このデイケア6時間のうち1時間を回想法に充てました。
なお回想法では【図表】に示したように、1920~1940年代の思い出につながるテーマと品物を準備して行いました。
いずれの群も、開始前および3ヵ月後のリハビリ終了時にMMSE(Mini Mental State Examination)およびHDS-Rによる評価を行いました。
その結果、知能機能評価は、対照群では全例で低下していましたが、通所リハビリ群では25%、通所リハビリ+回想法群では33%の患者で5点以上の改善を認めたことが明らかになったのです。
改善した患者はHDS-R、MMSE10点台の、軽度から中等度の認知症に多かったことも分かりました。改善の理由としては次の2点が考えられます。
一つは、デイケア(通所リハビリ)が患者の残存機能を賦活化したことです。患者の発病前に行っていた趣味活動、家事動作およびこの回想法による古い記憶の呼び覚ましとそれをテーマにした会話などを私は残存機能と呼んでいます。
もう一つは、デイケアプログラムに回想法を加えることで患者間の交流が活発になったことが、さらなる賦活化に影響したことです。患者は回想法において特に食物、お手玉、俳優のブロマイド、子どもの頃の遊びなどに関心が高く、会話による交流が活発になり、表情も豊かになりました。
なおデイケア(通所リハビリ)の効果は、通い始めの頃は顕著に現れ、回数を重ね長期になると徐々に低下していくのが一般的ですが、対照群(通院のみでリハビリを行わない)の認知機能の低下に比べれば、穏やかな低下であることも分かっています。よって、デイケア(通所リハビリ)およびデイケアプログラムに回想法を取り入れた方法は、長期にわたってもある程度、認知機能の低下を遅らせる効果があると考えられます。
家庭でリハビリを行う際のポイント
■「回想法」を意識したコミュニケーションで認知症の進行を抑制
デイケアに加え、家庭でも積極的に認知機能の低下を遅らせるリハビリを行うと、上乗せ効果が期待できます。
また、早期からデイケアを受けさせたくとも、現実には近くに施設がない、本人がどうしても行きたがらないなどの理由で自宅介護のみにならざるを得ない家庭もあると思います。そのような場合でも普段の会話を少し工夫することで、リハビリの要素が加わり、脳への刺激が高まる可能性があります。
とはいえ、リハビリと構えてしまうとかえってぎくしゃくしてしまうことがあります。私も数えきれないほど患者とその家族と会っていますが、コミュニケーションがよくとれていると思えるご家庭では、認知症の進行も当初の見込みよりずっと緩やかなことが実に多いのです。
つまり本人がよく口を開き、介護者がよく聞いてあげていればそれだけでも、脳の活性化にはつながるということです。
ただ記憶の呼び覚ましや定着という面においては、漫然と世間話をするのではなく、先に紹介した「回想法」を意識したコミュニケーションを心がけるとより効果的と思われます。
本人が話をしたがるのは、興味がある、面白いと思っている現れです。どのリハビリにも、また施設であっても家庭であっても、「面白いと思ってもらうこと」がやる気につながることに変わりはありません。リハビリだから、トレーニングだからといってはやる気が起きないどころか、むしろやりたくなくなってしまうものです。子どもが「宿題しなさい」と口酸っぱく言われると、余計にやりたくなくなるのと同じことです。家庭に回想法を取り入れる際もテーマの設定や進め方において、その点に留意するとよいでしょう。
〈テーマ設定における留意点〉
●昔の思い出をテーマに
⇒昔といっても、漠然と「子どもの頃」では、どのあたりの時代なのかはっきりせず、話がしにくかったり、かみ合わなかったりします。自分(患者本人)が10代の頃、20代の頃、といったようにある程度時代を区切ることが会話が弾むポイントです。
●写真を見ながら
⇒世代にもよりますが、昔の写真は当時の記憶をよみがえらせる助けになります。アルバムをめくりながら、「どこへ行った?」「何をしていた?」「誰と一緒?」といった質問をすると話を引き出しやすいでしょう。
●五感でコミュニケーション
⇒写真やアルバムは視覚に訴えるやり方ですが、ほかにも昔好きだったお菓子や果物などの食べ物を一緒に食べて当時の話をしたり、好きだった音楽を聴いたり、歌を歌ったりすることも効果的です。
そのなかで、本人が楽しかった出来事を思い出し、話をすることで、脳が活性化されます。介護者はじっくりと耳を傾けることが大事です。
〈進め方における留意点〉
●気楽に話す
⇒リハビリだからと構えてしまうと表情や言葉遣いがかたくなり、コミュニケーションがぎこちなくなってしまいます。世間話をするような感覚で接することがポイントといえるでしょう。そのなかでも、次のことを意識して進めるとより効果的です。
●具体的な質問をする
⇒例えば「10代のときどんなことがあった?」と聞かれても、年代が幅広いために何を話したらいいのか戸惑ってしまいます。「一番、嬉しかった出来事は?」というのも本人にとっては思い出すまでが一苦労で、すぐには答えられないでしょう。
質問は、具体的であればあるほど答えやすくなります。例えば「小学生のときはどんな遊びが好きだった?」という聞き方なら、「小学生のとき」「遊び」といった具体的な言葉が入っているので、本人がピンポイントで思い出しやすく話しやすいのです。
また、「はい、いいえ」で答えが完結してしまう質問より、本人が自分の思い出話を具体的にしやすい質問のほうが脳の活性化には有効です。「小学生時代は楽しかった?」という質問よりも「小学生時代は何の授業が好きだった?」と尋ねるほうが話しやすく、話が続きやすいでしょう。
●間違いを訂正しない
⇒質問を受けて本人が話しだすと、その内容がときに事実ではないこともあります。そのときに間違いを訂正してしまうと、本人は話したことをとがめられたと思い込み、気まずくなって口を開かなくなってしまいます。
たとえ事実とは違っても、訂正せずに聞くことがポイントです。認知症リハビリというと、ともすると正確に思い出す=認知機能の維持、改善と思われがちですが、実はそうではありません。昔の記憶を呼び覚ますプロセスこそが大事なのです。よってその結果、口から出てきた事柄が間違っていたとしても、なんらリハビリの効果が損なわれることはありません。
●無理に聞き出そうとしない
⇒思い出がすべて楽しいものとは限りません。なかには話したくない、思い出したくもないという事柄もあるでしょう。それをリハビリだからといって無理に話をさせようとしては、本人の興味がそがれてしまいます。
質問をしてみて口が重いようであればさっと切り上げ、別の質問に変えてみましょう。
旭俊臣
旭神経内科リハビリテーション病院 院長
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