(※写真はイメージです/PIXTA)

身体活動と認知機能が互いに影響し合うことは、あまり知られていません。本稿では、健康寿命や認知症リスクにも関わる重要な社会問題、「フレイル」について見ていきましょう。認知症の専門医・旭俊臣医師が解説します。

「身体の状態」は「認知症の症状の出方」に影響大

認知症は脳に起こる病変ではありますが、身体の状態が症状の出方に大きく影響します。例えば腰痛や関節痛などにより痛みがあると、不快な感情がつのりBPSD*が強く出やすいことなどです(*BPSD…認知症中期から始まる、徘徊や妄想、暴力や暴言といった症状。周辺症状ともいう)。

 

したがって医療・介護従事者や認知症の人を介護する家族の方は、高齢者の身体にどのような変化が起こるのかを知ることが大切だと考えます。実はこのことは認知症に限らず、すべての高齢者の健康維持向上とその先にある介護予防にとって押さえておくべき基本理念であると私は考えます。

 

ここでは病気とは定義されないものの、健康と要介護状態の中間に位置し、そのままでは著しく健康寿命を損ねる「フレイル」について説明します。

「フレイル」は身体能力だけの問題ではない

高齢者はたとえ認知症でなくても、加齢に伴い心身の機能が低下し、また社会とのつながりも希薄になりがちなことが、高齢化が進む日本において社会問題となってきています。これがいわゆる「フレイル」の問題です。

 

介護保険を巡り2007年に「介護予防」の概念が導入されてから、さかんに「フレイル」という言葉が聞かれるようになりました。「フレイル予防のための体操教室」など、各自治体で高齢者向けの健康イベントの告知に使われることも多く、言葉自体は知っているという人も多いかもしれません。

 

しかし、その意味するところがきちんと一般に伝わっていないと感じています。

 

フレイルとは「frailty(フレイルティー)」という英語を語源とし、その意味は「虚弱」「脆弱」です。したがって、身体が弱り、歩けなくなったり寝たきりになったりといった身体面での能力低下だけがクローズアップされがちです。

 

しかし本来は身体だけでなく認知機能も含めた心の活力、そして社会的なつながりをもつ力も加齢とともに弱くなり、それらをすべて含めてフレイルと呼んでいます。つまり、加齢とともに心身の活力や社会的なつながりが減ってしまう状態を指すのであり、決して身体能力だけの問題ではないのです【図表】。

 

出典)東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢『フレイル予防ハンドブック』
【図表】フレイルの多面性 出典)東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢『フレイル予防ハンドブック』

 

〈サルコペニア〉

加齢に伴い筋力が低下したり筋肉量が減少した状態を指し、身体のフレイルに関係します。筋肉量が減ると筋力や体力が低下し、運動量が減ります。その結果ますます筋力が低下し、やがて歩けなくなり寝たきりになってしまうリスクが高くなってしまいます。

フレイルの主要因は「予備力の低下」

フレイルは健康と要介護の中間段階であり、健康寿命(元気に自立して過ごせる期間)を縮めてしまう要因になります。

 

高齢者に起こる身体的特徴の一つに「予備力の低下」があります。フレイルはこの「予備力の低下」が主要因として起こりやすいといわれています。

 

予備力とは、例えば「火事場の馬鹿力」という慣用句のような切迫した状況におかれると出現する「普段では出せないような能力」のことです。

 

人間にはもともと、病気や不調の元になる害や刺激(ストレッサー)から、身体を守る力が備わっています。これは次の4つに大別されます。

 

●防衛力(ストレッサーと戦う力)

●予備力(強いストレッサーに対処可能な余力)

●適応力(ストレッサーに適応し身体へのダメージを減らす力)

●回復力(ストレッサーによるダメージから回復する力)

 

フレイルは、このうち特に「予備力」が低下している状態といえます。健康を守る余力がなくなるためにちょっとした不調で寝込んだり、ささいなアクシデントがきっかけで歩けなくなり、要介護に至ってしまうリスクが高くなってしまうのです。

 

若かったり健康であったりすれば、身体を守る力に先の予備力も上乗せされているので、無理がききやすいのですが、高齢になるとそうもいきません。それは加齢により予備力が低下しているからといえます。まして高齢者の多くは生活習慣病等の持病をもっており、身体を守る力は普段から消耗しがちです。そのためちょっとしたことで体調を崩したり、ふさぎ込んでしまったりして心身の機能が衰えやすくなってしまうのです。

 

フレイルにより認知機能も低下しやすくなり、認知症を発症するリスクが高いことが報告されています。一方、認知機能が低下すると筋力や身体活動量、ADL(日常生活動作)が低下し、フレイル状態を招きやすくなります。さらにはうつや不安など精神面にも悪影響を及ぼすために、人との交流が少なくなりひきこもってしまうなど社会的なつながりも薄くなってしまいます。このように身体活動と認知機能は互いに影響を及ぼし合うのです。

 

 

旭俊臣

旭神経内科リハビリテーション病院 院長

 

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※本連載は、旭俊臣氏による『増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

増補改訂版 早期発見+早期ケアで怖くない隠れ認知症

旭 俊臣

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本では高齢化に伴って認知症患者が増えています。罹患を疑われる高齢者やその家族の間では進行防止や早期のケアに対する関心も高まっていますが、本人の自覚もなく、家族も気づいていない「隠れ認知症」についてはあま…

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