(※写真はイメージです/PIXTA)

ビルの1室を店舗として借りていた借主。退去の際、原状回復費としてビルオーナーに320万円を支払うも、実際には工事が行われていないことを知り、返金を求めて裁判となりました。しかし、裁判所が下した判決はまさかの「借主の返金請求を認めず」。いったいなぜ認められないのか、賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が解説します。

裁判所が借主からの返還請求を「認めなかった」ワケ

このような事実関係を前提として、本件において裁判所は、貸主と借主とのあいだの解約時における合意内容を、

 

「借主が本件店舗の原状回復工事に要する費用594万円(消費税込)を同年6月15日までに貸主に支払うことにより借主の本件店舗の原状回復義務を免除し、本件店舗の明渡しが完了することとし、解約日までの賃料や敷金等の清算を行い、その他に本件賃貸借契約に関し、借主及び貸主はなんら債権債務が存在しないとする合意であると解するのが相当である。」

 

と認定したうえで、

 

その後の事情の変更により、貸主が原状回復工事を実施しなかったり、原状回復工事の施工内容が変更されて費用額が上記金額と異なったりしたとしても、その清算を行わないことを前提とした合意であると解される。」

 

と述べて、借主からの返還請求を認めませんでした

 

本事例では、裁判所は、貸主と借主とのあいだの解約合意内容は、借主が貸主に原状回復工事相当額を支払うことにより借主の原状回復義務の履行に代えることを合意する旨にとどまるのであり、

 

また、これをもって貸主と借主間に債権債務関係はなんら存在しない合意もされているので、これを超えて借主が貸主の指定する業者に原状回復工事を委託するという趣旨までは含まない、という解釈をしたと考えられます。

 

本件のように、貸主が原状回復費用を受領したものの、その後原状回復工事を行わなかったという場合に、返還義務を負うかどうかは、賃貸借契約書と契約解約の際の合意内容の解釈が重要となりますので、事後のトラブルを防止するためには、この点双方に認識の相違が無いように定めておく必要があります。

 

このようなトラブル防止のために、解約時にどのように合意をしておくかということについて、本裁判事例は1つの参考となる事例といえます。

 

なお、同じ争点が問題となった事例として、東京地方裁判所平成29年12月8日判決の事例もありますので、こちらもご参照ください。

 

※この記事は2022年4月10日時点の情報に基づいて書かれています(2022年5月30日再監修済)。

 

 

北村 亮典

弁護士

こすぎ法律事務所
 

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

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