裁判所が借主からの返還請求を「認めなかった」ワケ
このような事実関係を前提として、本件において裁判所は、貸主と借主とのあいだの解約時における合意内容を、
と認定したうえで、
と述べて、借主からの返還請求を認めませんでした。
本事例では、裁判所は、貸主と借主とのあいだの解約合意内容は、借主が貸主に原状回復工事相当額を支払うことにより借主の原状回復義務の履行に代えることを合意する旨にとどまるのであり、
また、これをもって貸主と借主間に債権債務関係はなんら存在しない合意もされているので、これを超えて借主が貸主の指定する業者に原状回復工事を委託するという趣旨までは含まない、という解釈をしたと考えられます。
本件のように、貸主が原状回復費用を受領したものの、その後原状回復工事を行わなかったという場合に、返還義務を負うかどうかは、賃貸借契約書と契約解約の際の合意内容の解釈が重要となりますので、事後のトラブルを防止するためには、この点双方に認識の相違が無いように定めておく必要があります。
このようなトラブル防止のために、解約時にどのように合意をしておくかということについて、本裁判事例は1つの参考となる事例といえます。
なお、同じ争点が問題となった事例として、東京地方裁判所平成29年12月8日判決の事例もありますので、こちらもご参照ください。
※この記事は2022年4月10日時点の情報に基づいて書かれています(2022年5月30日再監修済)。
北村 亮典
弁護士
こすぎ法律事務所
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