(※写真はイメージです/PIXTA)

ビルの1室を店舗として借りていた借主。退去の際、原状回復費としてビルオーナーに320万円を支払うも、実際には工事が行われていないことを知り、返金を求めて裁判となりました。しかし、裁判所が下した判決はまさかの「借主の返金請求を認めず」。いったいなぜ認められないのか、賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が解説します。

原状回復費用を受け取ったものの工事は行われず…

【賃貸ビルオーナーからの相談】

 

当社は所有する賃貸ビルの一室を店舗用として貸していました。

 

その後、この店舗の賃借人が退去することとなり、賃貸借契約を合意解約したのですが、その際に、契約書に従って原状回復費用を算定したところ、約593万円になりました。

 

賃貸借契約書では、「貸主の指定する業者で原状回復工事を行う」とされていましたので、解約合意書を取り交わしたうえで、上記工事費用から保証金を差し引いた残金320万円ほどを借主に支払ってもらいました。

 

その後、すぐに新賃借人が見つかり、そのままの状態で貸すということになったため、結局原状回復工事は行いませんでした。

 

そうしたところ、その状況を知った元賃借人から、「原状回復工事を行わなかったのだから、当社としては支払った原状回復費用を返してもらいたい。」と言われてしまいました。

 

当社は、返還しなければならないのでしょうか。

 

【説明】

 

本件は、東京地方裁判所令和元年10月1日判決の事例をモチーフにしたものです。

 

この事例では、借主が、契約解約時に貸主に支払った原状回復工事費用について、「原状回復工事を実施しなかったのであるから貸主の不当利得である」として返還請求訴訟を起こしたというものです。

 

この事案において、賃貸借契約書において、明渡し・原状回復部分については、以下のような規定がありました。

 

(イ)借主は、賃貸借期間内に本件店舗を原状に復して貸主に明け渡さなければならない(1号)。

 

(ウ)前(イ)の場合、借主が遅滞なく本件店舗を原状に復さないときは、貸主は借主に代わって借主の費用でこれを行い、収去した物件を任意に処分することができる(2号)。

 

(エ)上記(イ)の原状回復工事については、貸主の指定する業者で貸主の指示に従い実施するものとする。(3号)。

 

このような契約条項を前提としたうえで、貸主と借主は、賃貸借契約の解約合意書で主に以下のように合意をしていました。

 

・本件賃貸借契約のうち本件賃貸借契約書第23条に基づき、貸主指定業者により原状(スケルトン状態)回復を行い、本件店舗の明け渡しを完了することを及び貸主は確認する。

・借主は、貸主に対し、原状回復工事費用594万円(消費税込)を貸主からの請求に基づき、平成28年6月15日までに支払うものとする。

・貸主及び借主は、本件合意の書面に定める他に、なんらの債権債務が存在しないことを確認する。

 

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

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