オフィスの価値が見直されている理由
■リモートワークの影響は限定的!
とはいえ、コロナ禍が長引き業種や職種によってはリモートワークが前提になる動きもあります。メディアでは都心から郊外や地方への移住のほか「オフィス不要論」までもささやかれているほどです。人が離れると当然ながらその地域の賃貸需要もなくなってしまいます。では実際のところ、リモートワークの浸透によって東京の賃貸需要はどのように変わったのでしょうか。
結論から言うと、わたしはリモートワークが東京の賃貸需要に与える影響は限定的だと考えています。その理由は2つあります。
■リモートワーク長期化でオフィスの価値が見直されている
1つはリモートワークが長引くにつれ、むしろオフィスは必要なのではないかと考えられる調査データが出始めたからです。
オフィス仲介大手の三鬼商事によると、2021年7月時点で千代田区や港区など都心5区にある大型オフィスビルの空室率が6.28%となり、17か月連続で空室率が上昇しています。供給過剰の目安が5%であることを考えると、都心からオフィスがどんどんなくなっていくのではないかと思ってしまいます。
三菱地所が行った調査では、2021年6月時点で、仕事の場所がオフィスとテレワークの併用またはテレワークのみと答えた人の割合は67%となり、オフィスのみという人は33%でした。
その一方で、事業用不動産大手CBREが取りまとめたレポート「コロナ禍で加速するオフィスの再評価」では、オフィスの減床による実際のマーケットへの影響は限定的で、仕事の生産性の面でもリモートワークで仕事ができることが必ずしもオフィス不要に結びつかないのではないかと指摘しています。
レポートでは23区の賃貸ビル入居企業のうち「オフィスを減床予定」と答えた企業の割合は32%に上ってはいるものの、回答企業のオフィス使用面積と増床や現状維持の割合も含めると、今後リモートワークがオフィス市場の実需に与える影響は1.8%程度の減少にすぎないと試算しているのです。ここから大幅にオフィスを減床する企業は極めて少数ということがわかります。
ではなぜ、リモートワークが一般化してきたにも関わらず、企業は今後もオフィスを維持するのでしょうか。レポートではリモートワークが長期化するにつれ、従業員同士のコミュニケーションと部下やチームのマネジメント、社員の心身の健康管理などの課題が浮き彫りになっているとの調査結果が出ています。
前出の三菱地所の調査でも、個人の生産性について、業務内容ごとにオフィスとテレワークを比較すると、『打ち合わせ・ディスカッション等はオフィス(対面)のほうが生産性が高い』との回答が6~7割に上っており、その結果としてコミュニケーションや事業推進力が低下しているとしています。それを裏付けるように、勤務形態がリモートワークのみの人は現状でも8%で、コロナ後はわずか5%となると予想されています。
あなたも、リモートワークで仕事を進める上でほかの社員とのコミュニケーションに齟齬が生じたり、マネジメントの難しさを感じたりしたことがあるのではないでしょうか。
こうした調査をみると、現状ではリモートワークですべての仕事が従来通りのパフォーマンスで完結するのは難しく、東京からオフィスが大幅に減少することは現実的ではないことがわかります。オフィスに通うことがなくならない限り、人々は通勤の利便性を考え東京に住み続けるでしょう。むしろ、満員電車の通勤を避けて、オフィスまで徒歩や自転車で辿り着ける都心・駅近立地の魅力はさらに向上するとも考えられます。