なぜ東京は若者を引き付けるのか?
■賃貸需要は底堅く推移! その理由は東京がもつ「多様性」
リモートワークの影響が限定的だと言えるもう1つの理由は、依然として賃貸需要が底堅く推移しているからです。
わたしの会社でヒアリングを行った結果、確かに、初めて東京で緊急事態宣言が発令された2020年4月は、新社会人や転勤、外国籍の需要の低下により、例年と比べ仲介会社への来店が2~5割ほど減少しました。さらに、多くの入居申し込みのキャンセルも発生。この影響は2か月ほど続きました。
しかし、緊急事態宣言が明けの7月ごろからは状況が変化しました。客足も徐々に戻り、来店客数は例年と比べほとんど変わらない水準にまで回復したのです。
そして2021年1月に2度目の緊急事態宣言が発令された際、その影響を確認するため、賃貸仲介会社51社に対して、緊急事態宣言再発令後の賃貸需要についてアンケートを実施しました。その結果、入居希望者が「増える」「例年通り」と回答した会社は24件と約半数に上り、「減る」と答えた14件を上回る結果となりました。実際に、わたしの会社で管理している物件の年間平均入居率は2021年8月末時点で依然として98%以上を維持しており、東京の賃貸需要は底堅く推移しています。
メディアでは、東京の人口が減少に転じたことがことさら取り上げられます。ただ、内訳をみると東京一極集中の傾向が変化したとは言えないことがわかります。
東京都が発表しているデータによると、初の緊急事態宣言が出た2020年4月と、3回目の緊急事態宣言が出た2021年4月のデータ(それぞれ1日時点)を比較すると、コロナ禍から1年で東京の総人口は2万5443人減少しましたが、「日本人」に限ると7440人の増加となっています。つまり、東京から減っているのは外国人ということです。
出入国在留管理庁のデータでは、コロナ禍で入国に制限がかけられたことから、2019年と比べて2020年の外国人入国数はおよそ9割減でした。旅行などを目的とする短期滞在を除いても、7割減で、そもそもの流入が大幅に減速しているのです。わたしの会社では、外国人入居者のなかで特に留学生が多いのですが、提携する留学斡旋のエージェントからは日本の学校に進学を希望していてもビザが下りず、日本にやってくることができない学生たちが今多くいると聞きます。
また、厚労省の統計によると、2020年10月末時点で外国人を雇用している事業所で最も多いのが「製造業」の19.3%で、「卸売業、小売業」が18.1%、「宿泊業、飲食サービス業」が13.9%と続きます。緊急事態宣言により宿泊業や飲食業が大打撃を受けたことを考えると、コロナ禍で仕事を失った外国人がやむなく東京を離れたのではないかと推測できます。そうした外国人はコロナ禍が終息した後、再び仕事を求めて東京に戻ってくるのではないでしょうか。
さらに言うと、2020年の1年間における15歳~29歳の若年層の転入出状況を見てみると、東京都は7万3855人の転入超過で全国トップとなっており、2位の神奈川県が2万3500人でしたので、実に3倍以上の若者を集めているのです。つまり、データからも東京は依然として人が集まる都市だと言えます。
その大きな要因が東京のもつ「多様性」です。東京は平均給与の高さや勤務先の豊富さ、通勤の利便性といった働く場の側面だけではなく、生活の場としても魅力にあふれています。買い物や様々な娯楽施設、アミューズメント施設が日本で最も集まっており、大型再開発も次々に予定されています。
仕事はもちろん、学校や商業施設、娯楽施設、さらに、交通網が整っている東京だからこそ、日本一の大都市としての魅力が失われない限り、リモートワークの影響は限定的だと言えるのです。
重吉 勉
株式会社日本財託 代表取締役社長
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