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資本主義は借金があるからこそ回っていく
■実際に生産性を上げるには?
生産性を向上させるには、単なる掛け声だけでできるわけではありません。先立つもの、お金がかかるのです。例えば人を再教育するとします。そうしたら教育関係に投資しないといけません。テクノロジーで底上げしていくことを狙うなら、やはりお金を使って基礎研究を充実させないといけません。
これは政府と民間それぞれに役割があります。基本的に収益に直接結びつくようなことは民間に任せるべきです。政府のやるべきは、ただちに収益に結びつかないけれども、民間がそれを応用すれば、新しい価値ができ、ビジネスに展開できるようなことを具現化することです。
要するに基本的な技術。バイオやITで最もベーシックな技術をずっと底上げしていくとか、理論的な研究とかたくさんあります。これは収益が望めないので民間企業ベースでは難しい話です。政府はこのような研究にお金を使うべきです。
あとは防衛関係です。やはり民間ではできない。それから教育、インフラもそうです。最後には政府が借金するしかないでしょう。これは先の展望があることだから推進すべきです。
「政府が借金したら財政赤字で大変だから、財政破綻するから、ダメだ」と決めつけるのは、甚だしく“非”経済学的だと私は思います。先にも触れましたが、資本主義は借金があるからこそ回っていくのです。誰かが借金しないと誰かの資産は増えないのです。
金融経済にばかり目が向くと、実体経済はデフレであっても構わなくなります。お金が余るからです。余ったお金をいかにうまく運用すればいいか、株が上がれば投資した人みんなが儲かる……このようなことばかり考えるようになります。しかし国全体のことを考えるとやはり金融経済と実体経済のバランスが必要です。
「実体経済がデフレでお金が余るから金融経済にどんどん貯まって、動かない。それで儲かっているのは、先立つものを持っている投資家ばかり。これでは格差ばかりが広がってしまい、最悪のケースだ。だから実体経済にお金が回るように政治が動かないといけない……」。残念ながらこういう認識が日本にはありません。
■トリクルダウンとは?
格差というと、アメリカの場合は2021年6月時点で家計の全財産の27%を1%の富裕層が持っていると、FRB統計が示しています。そしてこれはそんなに悲観的な話ではなく、トリクルダウン効果が期待できるという話があります。これは上の層が豊かになれば下にもおこぼれがあるよということです。
しかしながら、この効果は経済成長率がかなり高くないと望めないと言われています。1%、2%くらいの成長率だと、受益できるのは富裕層に限られてくる。底辺の人々にはおこぼれは来ません。やはり金融資産がどんどん値打ちが上がるからといって、みんなが豊かになるというわけにはいかない。
ただし、経済成長率が3%、4%くらいまで高くなってくると、失業率が改善したり、消費ブームが起きたりします。そうするとすごくお金が回りやすくなる。物事がどんどん好転していくわけです。
こういう話を全部取っ払って、「一部の富裕層がいい思いをするだけだから、経済が成長するのは意味がない」みたいなことが言われますが、経済成長が持つ側面を前提にしていないから、これはよくありません。
経済成長率が高くなってくると、新規事業に出資しようという人も出てきます。とくにアメリカではベンチャー企業に投資する動きが活発になり、その恩恵にあずかる人も増えてくる。やる気のある人や能力のある人にはチャンスが出てきます。
一方で、単におこぼれを待っている人たちには厳しい目が向けられます。何もしてないと。これはコロナ禍で少し変わってきている印象です。コロナは不可抗力だから、やる気があろうとなかろうと、貧しい者とか機会に恵まれない人は一律給付をすべきだと。所得の再分配で底辺を支える。これは大事なことではあるのです。とくに恵まれない低所得層が沈むとなると、これは治安が荒れて社会不安になります。マイナスのコストが非常に大きい。
だから所得の再分配で底辺の人を救済していく、あるいは委縮した賃金全般を改善していくということは無条件に必要でしょう。コロナはやはり別格と思います。そういう意味では有事ということです。
田村 秀男
産経新聞特別記者、集委員兼論説委員
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