日本のように長期にわたるデフレに喘いでいる国は、販売単価が上がらず、むしろ下がっています。これが問題です。デフレは生産性を下げるのです。生産性が悪いからデフレを脱却できないのではなく、デフレだから生産性が上がらないのです。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

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本当に「生産性が高くないとダメ」なのか

■市場原理主義的視点での生産性とは?

 

このような市場原理主義的な考え方に基づくと、何をやるかというとM&Aです。M&Aは『広辞苑』では〈企業の合併・買収。企業多角化や体質改善・競争力強化のための重要な企業戦略とされる。〉と定義づけられています。要するに会社はひとつの商品です。企業内の部門も商品ですから、切り売りしてしまう。もしくは企業丸ごとどこかと合併する、あるいは吸収合併されてしまうということです。

 

企業は商品になりますから、株式の証券に化けて、値段がついて、取引されるのです。金融市場で取引される一種の金融商品になるわけです。アメリカ流の考えでは、会社は株主のものであり、株主価値を高めるのが株主から経営を委託された最高経営責任者(CEO)ら経営陣です。株主価値がどの程度かは、会社が商品として丸ごと、あるいは切り売りされるときに明確になります。

 

それで儲かるのは大口の投資家、投資機関、あるいは金融機関です。「生産性が高くないとダメだ」という考え方は、どうもこちらのアングロサクソン的な発想から来ていると思われます。

 

企業は商品だから非効率なところはすべて切って、効率を生むのだという考え方は、日本でも主張されています。私の古巣、『日本経済新聞』もそうです。アメリカの投資ファンド、大いに来るべきだ、物言う株主も大いに来い。会社は株主のものだから、株主にとっての価値を上げねばならない。

 

そうすると整理統合、余計なものは省くことになります。「会社は商品として、株主価値が上がらないとだめだろう」ということで、M&Aをやったり、上場企業の株をすべて買い取って非上場にして売ったりするわけです。これはすべて投資機関が儲かるわけです。

 

物言う株主、村上世彰氏のファンドやハゲタカファンドなどはそれを狙っているわけです。買い叩いた会社を価値のあるもの(生産性の高い会社)に仕立て上げてから売却し、儲けるというやり方です。

 

物言う株主といえば、東芝が話題になっています。東芝は原子力発電事業を拡大するとして、アメリカのウエスティングハウス社を買収しましたが、巨額損失を出して失敗しました。

 

例えばアメリカだったら、ウエスティングハウス社を買って、これはどうもうまくいかないということになると、すぐに売って逃げてしまいます。日本にはそういう文化がありません。M&Aをやったら、日本の経営陣はそれを死守しようとする傾向にあります。失敗を認めない。

 

ところがアメリカだと、社外取締役や物言う株主が多いため、「何をやっているのだ」と非難轟々になる。売らないとどうしようもないところまで追い込まれますから、すぐに手放す。アメリカはそういう文化です。

 

私は決してM&Aのすべてを否定するわけではありません。ただそれはアメリカの文化なのです。アメリカでは従業員も、経営効率化を理由に事業部門が丸ごと廃止されてクビを切られても「まあ、そうか」となる。そこで「じゃああなた、三ヶ月の間に再就職先を見つけてあげよう」と再就職先請負人のような者がやってくる。それで従業員もあきらめて荷物を整理してさっさと出ていって、別の仕事を見つける。そういうことがビジネス社会のシステムとして定着しているわけです。

 

日本の場合はそんなことはありません。名経営者と呼ばれたようなリーダーは必ずと言ってよいほど、新しい成長分野に挑戦するよう絶えず腐心し、事業部門の統廃合に伴う余剰人員を極力吸収できる基盤をつくり、全社一丸となって難局を乗り切るというタイプが圧倒的に多いのです。社員のクビ切りはあくまでも最後の手段なのです。

 

そういう文化というか、日本の企業文化のなかにアメリカ的考え方を一部だけポンと持ってくるのは無理があります。加えてアメリカは経済が成長していますから、チャンスがたくさんあります。日本は経済が停滞していますから、チャンスがほとんどありません。やり直すことが難しいのです。

 

日本の企業文化を考慮すれば、いまや形骸化されている終身雇用制も、意味のあることだったのです。

 

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    本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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