社会構造の変化で健康診断の重要性が増加
■なぜ働く人の定期健康診断を行う必要があるのか
近年、働く人の定期健康診断がこれまで以上に大切になってきています。なぜなら日本の社会構造が変化しているからです。
変化の一つは日本は世界で最も少子高齢化が進んだ国になり働く人たち全体の年齢が高くなっていることです。労働者の年齢が高くなるとそれだけ健康に不安を抱える人が多くなります。
例えば1990年、今から30年余り前は健康診断で異常所見がある人の割合を指す有所見率は20数%でした。職場で定期健康診断をして何か異常を指摘される人は、だいたい4~5人に1人くらいだったわけです。
ところがその後の社会の高齢化とともに有所見率は右肩上がりに増え続け、2018年にはついに55%を超えています(厚生労働省、定期健康診断結果調)。つまり日本の働く人の2人に1人以上が健康診断で高血圧や高血糖、血中脂質異常、肝機能障害などなんらかの異常を指摘されているのです。
高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病を長く放置していると、血管を傷めて動脈硬化を進行させ心筋梗塞などの心疾患や、脳梗塞や脳出血といった脳血管疾患を引き起こします。
昨日まで元気に仕事をしていた同僚がある日突然に職場や自宅で倒れ、帰らぬ人になる、という状況は脳や心臓の血管障害が原因になっている例が多いものです。脳血管疾患というと年配の人に多いイメージをもっている人もいるかもしれませんが、脳梗塞などは働き盛りの30~50代でも決して珍しくありません。
怖いのは生活習慣病は本人に自覚症状がほとんどないことです。生活習慣病を早期に発見したりその予兆に早い段階で気づいたりするためには年に1回以上の定期健康診断が欠かせません。
さらに社会構造の変化により、仕事内容や働き方も変化しています。近年は高度な情報社会になり業務が複雑化しています。インターネットの普及で場所や時間を問わず仕事ができるようになり効率的になった反面、労働者のストレスは増大しています。
また日本では女性特有のがんの発症も増え続けています。女性の社会進出が進んで男性と同様の長時間労働を求められ女性の心身の負担が増えていることも一因かもしれません。
こうした社会の変化を踏まえ、労働者の健康障害を未然に防ぎ、できる限り心身ともに健康で幸せに働き続けるために定期的な健康診断が必要になるのです。