コロナ禍で健康経営がブームに
近年、日本の企業の間で「健康経営」という言葉が広まっています。
「わが社も健康経営に挑戦したい」「うちの会社でもできるだろうか」と、考えた経営者もいるかもしれません。あるいは健康経営に取り組みたいが具体的に何をしていいかわからない、健康経営に着手してはみたもののいまひとつ効果が上がらない、そういった声もよく聞かれます。
健康経営とは何かを定義すると次のようになります。
「従業員の健康管理を経営的な視点でとらえ、戦略的に健康づくりに取り組むこと」。従業員の健康管理は企業にとってコストではなく、組織の成長・発展のための投資であるとする考え方です。
健康経営に注目が集まるようになったのは、2015年に経済産業省と東京証券取引所が「健康経営銘柄」を発表した頃からです。これは当時の安倍内閣が打ち出した日本再興戦略のなかの「国民の健康寿命の延伸」の取り組みの一つです。投資家にとって魅力ある企業を選定・公表することで、企業の健康経営を後押ししようとするものです。
2017年には同じく経済産業省が、健康経営優良法人の認定制度をスタートしています。経済産業省では、その目的を「健康経営に取り組む優良な法人を『見える化』することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから『従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人』として社会的に評価を受けることができる環境を整備すること」と説明しています。最新の健康経営優良法人2021には、大規模法人部門で1788法人、中小規模法人部門で7928法人が認定されています(経済産業省ホームページ、2022年1月現在)。
コロナ禍によって健康がますます意識されるようになり、今では健康経営はちょっとしたブームとも呼べる状況にあります。多くの企業がこの流れに乗り遅れまいと、さまざまな取り組みを始めています。
背景にあるのは、日本社会の少子高齢化や生産年齢人口の減少に対する強い危機感です。国の統計でも2018年には7500万人余りであった生産年齢人口が、2065年には約4500万人まで減少すると試算されています。
人数の多い高齢世代が退職していく一方で、若い世代は人数が限られています。退職者を補うだけの採用は年々困難になっています。さらにコロナ禍でメンタル不調者や休職・離職者も後を絶ちません。そこで少しでも企業イメージを向上させ、採用や人材確保で有利になるために健康経営に乗り出す企業も多くなってきました。あるいはメンタル不調を減らす対策として健康経営をとらえている経営者もいます。
しかし私はこうした健康経営のとらえ方に少々疑問を感じています。