平均費用は1万~1万5000円…活用されない健康診断の不思議【産業医が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

法律で義務付けられている健康診断。しかし、多くの企業が受けさせているだけ、あるいは実施はしているものの受診率が8割ほどに留まっている現状です。健康診断に掛かる費用は最低でも一人当たり7000円ほど、平均は1万~1万5000円、30人の職場であれば1回の定期健康診断で30万円から45万円と決して安くない費用が掛かっています。産業医の富田崇由氏曰く、健康診断の結果は個人の問題だけでなく職場の健康づくりにも活かすことができるそうです。

「ただ健診を受けさせるだけ」ではもったいない

■「ただ健診を受けさせるだけ」は、もったいない

 

会社内の定期健診の担当者はとりあえず毎年のことだからと社員に健診受診を促し、大多数の社員が健診を受けていればそれでよしとしていることが多いのではないかと思います。従業員が50人以上の職場は労働基準監督署に毎年の健診結果を報告する義務があります。しかし50人未満はそれもありませんから、本当に「受けさせているだけ」という会社が少なくないようです。

 

職場の定期健康診断にもいろいろな種類がありますが、最低限の一般健康診断でも一人あたりの費用は7000円以上です。平均的には1万~1万5000円くらいが中心です。従業員が30人の職場であれば1回の定期健康診断で30~45万円の負担になります。決して少ない負担ではないのにそれを職場の健康づくりに活用できていないのであれば、とてももったいないことです。

 

残念ながら、単に毎年の定期健診を受けさせただけで社員の健康度が上がるわけではありません。なぜなら、職場の定期健診で「経過観察」や「要精密検査」が1つか2つあっても、「まだそれだけで病気というわけではないから、大丈夫だろう」と考えてしまう人が大半だからです。

 

本来は健診の結果、異常がまったくなかった人はともかく「経過観察」などの異常が1つでもあった人はその時点で自分の生活の見直しをスタートさせることが大切です。生活習慣病はその名のとおり、日々の生活習慣の積み重ねが発症・悪化に大きく関与します。血圧や血糖値が高い、中性脂肪やコレステロールに異常があるとわかったときには、早い時期に生活の見直しを始めるほど改善効果も高くなります。

 

しかしそういう正しい健診結果の見方を知らなければ、そもそも数値を改善するために何か対策をしなければというモチベーションをもてません。そして毎年健診前の数週間だけアルコールや食事を少し控えて数値が良くなれば胸を撫でおろし、数値が悪くなっていると一時は心配するものの何ヵ月かすると忘れるという繰り返しになります。そうしているうちに年齢が上がり、生活習慣病が悪化したり改善が難しくなったりしてしまうことも多々あります。

 

職場の健康診断を受けたあとは「事後措置」といって生活改善などが必要な労働者に対して医師や保健師が保健指導をすることになっています。しかし、小さな会社では個別の指導などはほとんど行われていないのが現実です。

定期健診の結果から職場の抱える問題も見えてくる

■社員の健康状態は、働き方とも関係がある

 

会社として定期健診を行ってはいるものの、受診は本人まかせで健診受診率が低い会社もあります。厚生労働省の労働者健康状況調査(2012年)によると従業員数50人未満の職場の定期健康診断の受診率は、約79%にとどまっています。社員が10人いれば平均して2人くらいは健診を受けていないことになります。

 

確かに社員のなかには仕事の多忙さだけでなく、さまざまな理由で健診を拒否する人がいることがあります。会社の人事・労務担当者は、健康に関することは個人情報であり、個人が受けたくないというときはそれ以上立ち入ることはできないと思っている人もいるようです。

 

しかし、従業員に健診を受けさせることは法律で定められた会社の義務です。社員の健康保持・増進をすることが会社の責任でもあるのですから「なぜ受けたくないのか」を尋ね本人が納得して受診できるように働きかけをしなければなりません。

 

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    セイルズ産業医事務所 医師

    1978年生まれ、愛知県名古屋市出身。

    2003年3月、浜松医科大学卒業。
    2003年4月、名古屋第一赤十字病院にて研修。
    2005年4月、同病院救命センタースタッフとして地域医療災害医療にも携わる。
    2008年4月より複数の在宅クリニックにて在宅ホスピスに従事。
    2014年11月、ナラティブクリニックみどり診療所開院(内科心療内科精神科)。
    2016年4月、セイルズ産業医事務所開設。信念は「患者のストーリーに寄り添ってベストな治療方針を」。

    2016年に産業医事務所を開設後は、会社を「小さなクリニック」にすべく小規模事業者にも産業医の必要性を訴えている。

    著者紹介

    連載社員の生産性を最大限に引き出す職場づくり

    ※本連載は、富田崇由氏の著書『コストゼロで作る小さな会社の健康な職場』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

    コストゼロでつくる小さな会社の健康な職場

    コストゼロでつくる小さな会社の健康な職場

    富田 崇由

    幻冬舎メディアコンサルティング

    働く人の健康問題に注目が集まっていますが、組織として健康増進に取り組んでいる企業は多くありません。 「健康経営」や「従業員の健康づくり」は必ずしも産業医がいなければできないものではなく、小さな会社でもコストを掛…

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