「ただ健診を受けさせるだけ」ではもったいない
■「ただ健診を受けさせるだけ」は、もったいない
会社内の定期健診の担当者はとりあえず毎年のことだからと社員に健診受診を促し、大多数の社員が健診を受けていればそれでよしとしていることが多いのではないかと思います。従業員が50人以上の職場は労働基準監督署に毎年の健診結果を報告する義務があります。しかし50人未満はそれもありませんから、本当に「受けさせているだけ」という会社が少なくないようです。
職場の定期健康診断にもいろいろな種類がありますが、最低限の一般健康診断でも一人あたりの費用は7000円以上です。平均的には1万~1万5000円くらいが中心です。従業員が30人の職場であれば1回の定期健康診断で30~45万円の負担になります。決して少ない負担ではないのにそれを職場の健康づくりに活用できていないのであれば、とてももったいないことです。
残念ながら、単に毎年の定期健診を受けさせただけで社員の健康度が上がるわけではありません。なぜなら、職場の定期健診で「経過観察」や「要精密検査」が1つか2つあっても、「まだそれだけで病気というわけではないから、大丈夫だろう」と考えてしまう人が大半だからです。
本来は健診の結果、異常がまったくなかった人はともかく「経過観察」などの異常が1つでもあった人はその時点で自分の生活の見直しをスタートさせることが大切です。生活習慣病はその名のとおり、日々の生活習慣の積み重ねが発症・悪化に大きく関与します。血圧や血糖値が高い、中性脂肪やコレステロールに異常があるとわかったときには、早い時期に生活の見直しを始めるほど改善効果も高くなります。
しかしそういう正しい健診結果の見方を知らなければ、そもそも数値を改善するために何か対策をしなければというモチベーションをもてません。そして毎年健診前の数週間だけアルコールや食事を少し控えて数値が良くなれば胸を撫でおろし、数値が悪くなっていると一時は心配するものの何ヵ月かすると忘れるという繰り返しになります。そうしているうちに年齢が上がり、生活習慣病が悪化したり改善が難しくなったりしてしまうことも多々あります。
職場の健康診断を受けたあとは「事後措置」といって生活改善などが必要な労働者に対して医師や保健師が保健指導をすることになっています。しかし、小さな会社では個別の指導などはほとんど行われていないのが現実です。
定期健診の結果から職場の抱える問題も見えてくる
■社員の健康状態は、働き方とも関係がある
会社として定期健診を行ってはいるものの、受診は本人まかせで健診受診率が低い会社もあります。厚生労働省の労働者健康状況調査(2012年)によると従業員数50人未満の職場の定期健康診断の受診率は、約79%にとどまっています。社員が10人いれば平均して2人くらいは健診を受けていないことになります。
確かに社員のなかには仕事の多忙さだけでなく、さまざまな理由で健診を拒否する人がいることがあります。会社の人事・労務担当者は、健康に関することは個人情報であり、個人が受けたくないというときはそれ以上立ち入ることはできないと思っている人もいるようです。
しかし、従業員に健診を受けさせることは法律で定められた会社の義務です。社員の健康保持・増進をすることが会社の責任でもあるのですから「なぜ受けたくないのか」を尋ね本人が納得して受診できるように働きかけをしなければなりません。