歴史から紐解く「定期健康診断」の役割
■職場の定期健康診断の歴史
ちなみに、職場の定期健康診断の目的や内容は社会や産業構造の変化とともに変わってきています。
わが国では明治初期に欧州の衛生学が導入され、職業に由来する疾病予防が注目されるようになりました。当時は鉱山で働く労働者や製鉄・紡績・造船といった工場労働者の疾病予防や赤痢、コレラ、結核といった感染症対策が中心でした。
今から100年以上前の1911(明治44)年に公布され、日本の職場の定期健診を定める法令の原型となったのが工場法です。これによって常時15人以上を使用する工場に対し、職場での有害な要因の予防・除去や労働時間の制限などが規定されています。
1942年には工場法に基づいて一般労働者に対して身体測定、視力、聴力、ツベルクリン検査などの健康診断が行われるようになりました。この頃は戦時体制のなかで感染症予防と国民の体力向上のため、健康診断の体制が強化されていった時代です。
第二次世界大戦が終わった1947年には、工場法が改正されて労働基準法が公布されました。ここで雇い入れ時の健康診断、定期健康診断などが定められ、一般の労働者に身体測定、視力、聴力、胸部X線検査、喀かく痰たん検査などが実施されるようになっています。結核が猛威を振るっていた時期は、結核の疑いのある労働者に対し結核健診が実施されていたこともあります。
戦後復興期の50~60年代にかけては、金属鉱山労働者や粉じん作業をする労働者など、有害業務を行う人に対する特殊健康診断が義務付けられました(じん肺法ほか)。
70~80年年代には経済成長により国内産業がいっそう発展し、より幅広い労働者の安全衛生、健康管理が求められるようになります。
そして、1972年公布の労働安全衛生法に基づき職場における健康診断が一般化していきました。健診の検査項目も身体測定などに加え、血圧や尿検査、血液検査、心電図などが追加されていきました。現在に近い内容の職場の健康診断が確立されてきたのがこの時代といえます。
90年代から2000年代に入ると、増え続ける生活習慣病とそれに由来する脳や心臓の血管障害などの予防が職場における健康診断のおもな目的になってきます。
2007年には職場の健診に腹囲やLDLコレステロール検査が加わり、翌年2008年からは職場の労働者に限らず40歳以上の全国民を対象とした特定健康診査(いわゆるメタボ健診)が実施されるようになっています。
近年は現代社会に合わせた新しい健康診断も登場しています。心の病やストレスによる不調が増加していることを受け、2015年からは年1回のストレスチェック実施が義務付けられました(従業員50人以上の事業場)。
また、業務でパソコンなどのディスプレイに向かう時間が長い人を対象とした「情報機器作業健診」、配送業や介護職などの腰に負荷がかかる業務に従事する人のための「腰痛健診」などもあります。
このように職場の健康診断の歴史をひもとくと、働く人々の健康保持・増進のために職場の定期健康診断をはじめとした各種健診が大きな役割を果たしてきたことがよくわかります。
富田 崇由
セイルズ産業医事務所