理由3:「義務化」までは紙カルテでしのぎたい
診療報酬を包括払いで処理するDPC制度によって、厚生労働省は各疾患に適用する医療の標準化を図っています。
たとえば、変形性膝関節症の患者には軟骨の摩耗状況に応じて薬剤治療で様子を見たり、その効果が薄ければ関節置換術に切り替えたり、手術後は既定の日数以内に退院してもらおう、といった選択をなるべく標準化(ガイドライン化)して、医療の質を全国的により均一にしていくことを目指しています。
もちろん完治していない患者を無理矢理退院させることはしませんが、「この疾患の患者の治療には統計的に〇日かかり、A、Bの薬剤と、Cのアプローチが必要」というデータを集めていくなかで、「最も効率的な治療法」をそれぞれの疾患で確立したいのです。
医療費の無駄遣いの削減も目指されています。医療の標準化のためのデータ収集を後押しするのが、電子カルテの導入です。各病院がどのような治療をどのくらいの期間で行ったかは、電子カルテによって克明に記録されていきます。この記録を厚生労働省は吸い上げて、どの病院が適切な医療を提供しているか、どの病院がそうでないかを知りたがっているのです。
一方の病院側はDPC制度に電子カルテが重なることで、自院の治療プロセスが丸裸にされることに抵抗感を覚えています。手の内をすべて見られることには、何もやましいことはしていなくても心理的な抵抗感を覚えるものです。医療のプロセスの透明化は本来よいことではありますが、あたかも自分のやり方が間違いであることを前提とするかのようなやり方を歓迎しない病院が存在することも事実です。
あるいは、出来高払いでやっている病院には標準医療の確立が進んでしまうと、それが徹底されることにより受け取れる診療報酬が今より下がり、収益が悪化してしまうのではないかという恐れを抱いているところもあると思います。
さらに感情面でいえば、決裁者である院長・理事長クラスの人が、電子カルテを含む医療のIT化に苦手意識をもっていることも導入が進まない一因です。忙しいなか、新しいことを始めるには労力以上に気力も必要です。次の世代が対応してくれればよいと、自分の代での導入を見送る人も一定数いるのです。