経営ビジョンは「経営能力のある者が経営者」
■経営者は早い段階での承継準備が必要
さてここまで身内を後継者にしたケースを見てきたが、同友会企業でも社員に移譲するケースがないでもない。
福岡県中小企業家同友会の中村高明氏の盟友で、中小企業家同友会全国協議会前会長の鋤柄修エステム名誉会長は、共同創業者(パートナー)という立場だったが肉親にトップの座を譲る気は全くなく、営々として育ててきた大卒定期採用社員の中から前社長、次いで現在の塩崎敦子社長をトップに据えた。
エステムは経営ビジョンにおいて「経営能力のある者が経営者になる」と定めてあるから当然といえば当然だが、同族の経営者には非同族にはないその企業、その事業への強い愛着があるし、社内外の支持をまとめる点でも強みがある。もっとも半面、私物化、公私混同といった幾多の問題点もあることは事実である。
いずれにしろエステムでは自社の資産を厚くし、経営者個人が資産を担保に提供しなくてもすむようにすることで、社員経営者が可能になるよう体制を整えたのだという。
実は糸数幸恵氏は結婚に際し「私に良妻賢母を期待しないでください」と夫にはっきり伝えたという。幸恵氏は、仕事にかけるという意思がすべてに勝っているのだ。エステムの塩崎氏も、鋤柄氏によれば、仕事に注ぎ込む熱意は誰にも負けない人だという。同族であろうと、サラリーマン出身であろうと、そうした人であれば社員はついていくに違いない。
それと、もう一つ大事なことは、同友会内での事例はまだ少なく、それだけに会内での研究や検討も進んでいないようだが、今後、外部の企業やファンドに売却するM&Aや、社員によるMBOなどが増えていかざるをえないと考えられる。その場合も後継者選びと同様、現経営者側に早い段階からの準備が必要である。
経営者が70歳を過ぎてそろそろ辞めるか、さて後継者を誰にするか、どういう形で譲渡するかと考えるようではあまりにも遅すぎる。こうしてその企業しか有しない基盤技術や、その店しか扱わない商品が、誰も知らないうちに失われていったり、外国企業に買われていくことは、その企業だけでなく日本にとっても大きな損失である。
いずれにしろ、どういう形であっても事業承継に成功した企業のみが生き残っていけるということだ。
清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー
↓コチラも読まれています
ハーバード大学が運用で大成功!「オルタナティブ投資」は何が凄いのか
富裕層向け「J-ARC」新築RC造マンションが高い資産価値を維持する理由