(※写真はイメージです/PIXTA)

後継者不足のなかで娘を後継者に指名するケースも少なくない。自ら経営者として名乗りを上げる娘、娘を社長にするまでの道筋を考えた経営者の父、「経営能力のある者が経営者になる」決まりで社長に指名された女性社員…。地方の中小企業の事業承継を、清丸惠三郎氏がレポートします。

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老舗建設会社の「跡取り娘」の育て方

■娘を後継者に育てるなら

 

娘を後継者に指名するケースも、最近では少なくない。女性進出は時代の流れであるが、かつての中小企業家同友会の婦人部のように、ご主人が急死したから補完的に夫人が経営トップに就くという一時しのぎの選択ではないことだけははっきりしている。

 

中小企業家同友会関係のよく知られた事例では、居酒屋などにおける焼酎類の割材として知られ、順調に業績を伸ばしている「ホッピー」の製造販売元ホッピービバレッジ(改称前はコクカ飲料)の三代目社長石渡美奈氏などが代表的だ。いまも同友会関係の会合で講演することが珍しくないが、石渡氏の場合は父親の反対を説得して、自ら後継者として名乗りを上げたというから、意欲にはただならぬものがあったと見てていい。

 

沖縄県の地場老舗建設会社丸元建設の糸数幸恵氏の場合も、意欲的という点では同様だ。先代社長糸数憲一郎・現会長が三女の幸恵氏を後継社長(三代目)に指名したのは、彼女が神奈川県の会社を辞めて帰郷、丸元建設入社とほとんど同時だった。

 

幸恵氏によると、高校生のときにすでに「社長になる意思があるなら経営の勉強をしなさい」と伝えられており、それならばと、神奈川県内の大学の経営学部に進んだ。その後、ゼミで知り合った県内にある同友会会員の経営する会社に入社し、5年間、生産管理や人事・採用などの業務を経験させてもらったという。

 

13年に丸元建設に入社すると、1年半は総務・経理、営業、そして建築・土木の現場を経験し、その後取締役社長室長に就任、父親の下での本格的社長教育が始まった。憲一郎氏は幸恵氏によると「きわめて計画的な人」だそうで、彼女を社長にするまでの道筋をきっちり決めていた。社長室長は経営推進会議、受注会議など社内の主要会議に出席し、会社のことがすべて見える。そのうち工事の着手前会議が少し形骸化しているのではと思い、幸恵氏はその改革を考えた。

 

「ともかく受注さえできればいい。工事の運営や質については現場任せになる傾向があったのです」

 

幸恵氏は常務を経て17年11月に社長に就任するが、それまでの3年間で、ある橋梁工事を受注すると「全社協力して絶対に優良表彰を取ろう」と社内にハッパをかけたという。

 

公共工事の場合、技術面で先進的で、品質や工期遵守はもちろん、周辺環境への配慮や創意工夫、事故の有無などがチェックされ、優れた工事には優良表彰が出される。結果、この橋梁工事は17年度の表彰を受けることになった。同時に建築部門でも、別の案件で表彰を受けることになった。この十数年なかったことで、若い幸恵社長の下で丸元建設の評価が上がったことは間違いない。

 

この間、幸恵氏は地元のビジネスクールに通う一方、沖縄同友会に参加、経営をさらに学ぶ一方、人脈を広げる努力を続けてきた。

 

ここまで事業承継のケースを見てきたが、多少の紆余曲折はあるものの、事業を渡すほうが50代には事業承継の準備をし、50代後半から60代で後継者にバトンタッチしている。後継者は早い人で30代から40代前半である。とにかく男女を問わず早くからきちんと承継の準備をし、トライアルをさせる時間を与えつつ、経営権を早めに渡す。

 

そうすれば仮に承継後の経営がうまくいかなくても、バックアップ体制を組むことが可能だからである。成功する事業承継のパターンである。そこに同友会のイズムが加われば、事業承継の成功の可能性は一段と高まるということだろう。

 

次ページ社員とのコミュニケーションが欠かせない

※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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