「体験入居」は特別待遇、体験入居者を優先しなければならない。(※写真はイメージです/PIXTA)

「あそこはひどい老人ホームです」という口コミ情報がありました。しかし、単に目に見えることだけで判断すると介護現場では間違うことがあります。それはなぜでしょうか。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者の小嶋勝利氏が著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)で解説します。

介護は見えることだけでは理解できない

なんとなく、読者のみなさんも理解できたでしょうか。さらに言うと、見守り介護は、直接介護より厄介で、難易度の高い介護技術が必要です。

 

多くの介護職員は、見守り介護がまともにできず、ついつい自分が手を出してやってしまいます。理由は、自分でやったほうが早いからです。このケースも、介護職員が自分で着替えを手伝ってしまえば、数分で着替えは終わります。そして介護職員は、次の仕事に着手することも可能です。

 

しかし、このホームは介護職員がたくさんいる関係で、一人の介護職員が、見守りという面倒な介護に対し、十分な時間をかけて介護支援をすることができる環境にあったということです。

 

参考までに、私ならこのホームにこう口コミを流します、と記しておきます。

 

「Aホームは、自立支援に真剣に取り組んでいるホームです。介護職員が手厚く配置されているために、見守り介護が十分にできています。先日も、ホーム内で次のような光景を目にしました。手の不自由な入居者が介護職員の横に座り、自身で懸命に着替えをしています。正直、少し気の毒になり、介護職員が手伝ってあげれば良いのにと思いました。

 

しかし、ここの介護職員は、自立支援についてしっかりと学んでいるようで、あえて見て見ぬふりをしています。しかし、私には見守りをしている介護職員が、着替えをしている入居者のことを気にしている様子もうかがうことができました。5分後、どうにか着替えが終わりました。

 

介護職員が着替えの終わった入居者の最終的な点検を行い、少し整容してからその場を離れていきました。自立支援という介護方法を望んでいる人は、このホームは必見だと思います」

 

ということになります。

 

このように、介護とは、見える現象をただ見ているだけでは、実は正しく理解することはできません。私が介護業界に入った時、一番最初に先輩から教わったことは、笑顔で入居者の首を絞めて殺すようなことをしてはダメだ、ということでした。しっかりと相手の状況を見極めなさい、と言われました。

 

当時は、今のような自立支援などという言葉はありません。あったかもしれませんが、今のように浸透はしていませんでした。しかし、人の常識として「笑顔で絞め殺すな」という教訓を私たちは持っていたのです。

 

歩く能力があるにもかかわらず、めんどくさいので車いすが欲しいと言う入居者、自分で食べる能力があるにもかかわらず、面倒なので食べさせてほしいと甘える入居者、そのような入居者は、実はたくさんいます。その中で、その人のことを考え、歩ける能力があるのであれば「ゆっくりでもいいので歩きましょう」とか、「手が動く範囲で動かし、何とか自分で食べましょう」と促しながら、実践させることが重要だということです。

 

「歩けない」と言われ、「はい、そうですか」と言って車いすを用意すると、あっという間に本当に歩けなくなります。それで、本当にいいのですか? 自分のことを人にやってもらうということは、本来、それほど「楽」な話ではありません。むしろ、嫌なことのはずです。だから、多くの人は、自分の排泄の世話を他人にしてもらうことを良しとは考えていないのです。

 

「笑顔で入居者の首を締めて殺す」ことのないように。これが介護の今も昔も基本的な考えの一つです。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

 

 

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※本連載は小嶋勝利氏の著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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