(※写真はイメージです/PIXTA)

これから開業する会社や個人事業主がまず当たるべき金融機関は、ズバリ「公庫」。公庫を活用するメリットはさまざまですが、第一の特徴は、数ある金融機関の中でも借りやすいという点です。とはいえ、融資審査にあたってはその分野での事業経験はあるかどうか、自己資金の額や中身はどうかなど、様々な点から判断されます。ここでは、一般的に融資にこぎつけるのが難しいハードルを乗り越えた事例から、融資成功の秘訣を見ていきましょう。資金調達アドバイザーの田原広一氏が解説します。

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「未経験、自己資金ゼロ」でも融資のチャンスはある?

「実際の経験はなくても、創業計画はバッチリ! 今すぐ起業して成功する自信がある」という方もなかにはいると思います。確かに、未経験でも成功しているケースはありますが、その場合はほかの点でカバーできるかが審査の結果を左右します。

 

評価ポイントとしては、

 

●人脈がある

●自己資金がある

●計画が練られている

●熱意がある

 

などが挙げられます。

 

「人脈が広い」方ならば、自身が未経験の分野でも、その道に精通している人にサポートしてもらえることも期待できるでしょう。自己資金に余裕があれば、経験のある専門家にアウトソーシングすることも可能となります。

 

また、創業計画がしっかりと練られているのはもちろん、いちばん肝心なのが本人の熱意です。私のもとにもち込まれる相談のなかにも、単純に「流行りに乗ればうまくいくはず」「儲かれば何でもいい」といったケースも多く見受けられます。

 

そういう方は万が一、運よく融資が通ったとしても、遅かれ早かれ事業が立ち行かなくなり、「返済が困難」「商売自体をたたまざるを得ない」といった窮地に追い込まれること必至です。

 

また、自己資金がゼロの場合、融資は非常に難しくなりますが、例外的に並々ならぬ熱意で“未経験・自己資金0円”の二重苦を乗り越えたケースもあります。ここでは、一般的に融資にこぎつけるのが難しいハードルを乗り越えた2人の事例をご紹介します。

事例:起業経験ゼロの専業主婦が300万円の融資に成功

「専業主婦で今まで事業を立ち上げた経験がゼロでも融資は可能でしょうか?」

 

相談にいらした遠藤さん(仮名)の口から真っ先にこぼれたのが、自身の属性への不安でした。

 

ヨガ教室とスペース貸しで起業を構想したものの、今までヨガ教室を自身の事業として行った経験はなく、友人の手伝いや、ボランティアで市の施設を使って知人や友人に指導していたといいます。

 

今回、開業にあたっての融資を希望されたのは、友人や知人からもっと定期的に受講したいという希望を受けたことと、市の施設を利用する際に、日程や場所の調整が負担になってきたことが原因でした。

 

■「未経験」という融資ハードルを乗り越えた「計画性・将来性」

一般的に、未経験の場合、融資のハードルは高くなります。しかし、今回、幸いしたのが自己資金を100万円貯めていたこと。その計画性の高さをアピールし、ボランティアでの実績を基に、今後、どの程度集客が見込めるのか、あるいはスペースを貸す対象がどの程度いるかの将来性も提案しました。

 

具体的には以下の3点に関するデータをそろえました。

 

1. 既存の顧客数を証明

⇒過去の予約状況が分かるカレンダーを使い、これまでの実績を説明しました。また、利用者の「定期的にレッスンを受けたい」という意見があることを踏まえた、今後の顧客来場回数をシミュレーションする資料を作成しました。

 

2. 立地の発展性

⇒周辺には大型スーパーや飲食店があり、今後もさまざまな店舗が建つことが予想されるエリアでした。駐車場も近隣に位置しており、認知度アップが見込める立地条件だったことも、新規獲得しやすいという判断につながりました。

 

3. 新規獲得実績

⇒ボランティアとはいっても、数年間、講師をやってきた実績から、人脈を活かした集客が可能だという説明をしました。

 

未経験でもこうした資料を用意し、説得材料としたところ、事業性を理解してもらえ、300万円の融資に成功しました。

事例:“未経験・自己資金0円”の二重苦だったが…

福原さん(仮名)は、飲食店の経験もなく、さらに自己資金も自分で貯めたお金も0円。家族からもらったお金が100万円あるのみでした。

 

■並々ならぬ「ラーメン愛」で350万円の融資に成功

本来、自分で貯めた自己資金がなく、経験値も低ければ融資を受けられる確率はゼロに等しいといっていいでしょう。

 

ただし、福原さんの場合は、よくある脱サラでラーメン店を開業というパターンではなく、地元で有名なラーメン店の20年来の常連で、経営者が店を辞めるにあたって、味を引き継いでほしいという依頼を受け、少額の買収価格でスタートできる好条件がありました。

 

さらに、創業のときから店頭に立つ経営者の母親、アルバイトの方も継続して働いてくれるという周囲のサポートがある点も評価につながりました。

 

なんといっても20年間、その店に通い続けたこともあり、ラーメンに対する愛情は並々ならぬものでした。そのラーメン愛、店を引き継ぐうえでの熱意を別紙にしたためてもらい、審査に提出しました。

 

こうした人間性と、もともと地元で評価の高いラーメン屋を引き継ぐという2点が評価され、結果的には350万円の融資に成功しました。もちろん、これはレアケースで、公庫担当者と私の間で多数の実績があったことも幸いしました。

 

その担当者は、非常に人間味溢れる方で、融資にあたって、次のような苦言をあえて呈してくださいました。

 

「本来ならば経験もなく、自己資金もゼロという計画性が低い状況では、融資はなかなか難しいのが現実です。きちんと計画性をもたないと、ラーメン愛だけでは遅かれ早かれ店をたたむことになりますよ」

 

まさに、福原さんの将来を考えたうえでの“愛のムチ”とでもいうべきでしょう。

 

脱サラでラーメン店をやりたいという方は多くいらっしゃいますが、1年足らずで廃業に追い込まれるケースが多いのもまたラーメン店というのも現実です。

 

融資がうまくいったとしても、そこはスタート地点でしかありません。長く事業を続けていくためにも、自己資金、経験値の綿密な備えが基本と心得ましょう。

 

 

田原 広一

株式会社SoLabo 代表取締役

 

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    田原 広一

    幻冬舎メディアコンサルティング

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