(※写真はイメージです/PIXTA)

個人事業主、法人にかかわらず創業時から依頼するのも一つのやり方でしょう。固定費として顧問料や決算料がかかってくるものの、帳簿の記帳や申告などの手間が省けるうえ、融資時の信用アップにもつながります。ただし、会社の数字を「すべて税理士任せ」にしてはいけません。会社存続のためのポイントを見て行きましょう。資金調達アドバイザーの田原広一氏(税理士有資格者)が解説します。

会社の数字を「税理士任せ」にするのはリスク大

■会計上で「利益が出ているから大丈夫」と思いきや…

優秀な税理士と顧問契約を結んだとしても、「会社の数字のことはすべて税理士に任せているから大丈夫」「税理士とのやりとりは経理担当にすべて任せている」という方がいたとしたら、それはリスク大といわざるを得ません。

 

実は税理士が作成した毎月の試算表や、決算書を見て、「売上も利益も順調に出ている」と安心していたら、思わぬ落とし穴にはまるリスクも大きくなります。会計上の数字では利益が出ていたとしても、預金残高はマイナスになっていることがあるからです。

 

簡単な例でご紹介しましょう。

 

「現金売上100万円、現金仕入れ50万円、支払った経費40万円、借入金返済15万円」の会社があったとします。

 

本業の取引だけを計算すれば、「売上100万円-仕入れ50万円-経費40万円=利益10万円」。利益が10万円出ているので問題ないようにも見えます。

 

しかし、利益が10万円あっても、借入金の返済が15万円ありますので、「利益10万円-借入金の返済15万円=マイナス5万円」となります。

 

結果的に手元の現金は5万円減少することになり、この状態が継続すれば、どんどんマイナス額が蓄積していくことになります。

 

このように会計では「利益が出ているから大丈夫」と思っていても、結果として預金残高が減少。気づけば「会社にお金がまったくない」と、倒産寸前まで追い込まれるようなケースは決して少なくありません。

 

キャッシュがなければ会社は潰れる。

 

これが会社存続の法則です。現預金とは会社の実態を表す何より大事な項目でもあるのです。

「毎月末の預金残高チェック」で黒字倒産を防ぐ

■メモ帳に「預貯金の増減」と「なぜ増減したのか?」を書き留めるだけ

では、利益が出ているのに倒産するという、悲しい黒字倒産をどうしたら食い止められるのか。

 

実はカンタンな方法があります。それが、私が勧めている、毎月末の預金残高の増減をチェックすることです。

 

会社のお金の流れを示す財務諸表に「キャッシュ・フロー計算書」がありますが、事業を始めたばかりの忙しい時期に、わざわざ時間を割いて小難しい会計の勉強に取り組む必要は必ずしもありません。

 

最初に見るのは、預貯金の増減だけでOKです。やることは、通帳の預金残高のみを毎月月末にメモする。次に増減した理由について考え、コメントとして付記する。それで完了です。月末の営業日の仕事終了時に習慣づければ、ものの5~10分もあれば誰でもできるのではないでしょうか。

 

記載するのはノートでも、メモ帳でも、エクセル表でも何でも構いません。最初は明確な増減理由が分からなくても、大体の感覚で「これが理由かな」と気づいたポイントを書いていくだけで問題ありません。

 

例を使って解説しましょう。

 

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(2月末預金残高合計500万円)

 3月末預金残高550万円

・50万円増加したのは、車両の販売が好調で、売上、利益がアップ。結果的に預金も増加。

 

 4月末預金残高合計450万円

・100万円減少した理由は、新しい集客ツールに投資したことが原因。

 

 5月末預金残高合計400万円

・50万円減少の理由は人材採用の広告費を支出したこと。

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といった具合です。

 

大事なのは会社の現金が増えているのか、減っているのかを把握すること。そして、もっと大事なのは、なぜ預金が増減したのかを考えることです。

 

現預金が減ったのが「将来への投資」というプラス要因ならばいいですが、「売上が下がった」といったマイナス要因であれば対策が必要となります。さらに売上の減少が季節要因なのか、突発的な要因があったのかによっても対応は異なります。

 

また、2ヵ月、3ヵ月と連続して現預金が減っているとしたならば、速やかなアクションが必要となります。売上が下がっているならば、新たな集客を考えてみる。ムダな経費があれば削る。こうして危険信号を早めに察知し、手を打つことで、いつの間にか手元の現金が枯渇してしまうリスクを軽減できるのです。

「預金が尽きてから」では事業存続の手段も限られる

■融資は「お金があるとき」なら比較的借りやすいが…

預金残高のチェックについては、融資の相談にみえたお客さまにも必ず実践していただけるよう助言をしています。

 

その大きな理由は預金が枯渇した状況に追い込まれると、事業存続に向けて取れる対策が限られてくるからです。

 

特に資金調達の一つの手段である融資は、お金があれば比較的借りやすいものの、いざなくなって、資金需要が高まってからでは、借りるハードルがグッと上がります。

 

私のもとにも、どうにも資金繰りが回らなくなってから相談にみえる方が数多くいらっしゃいます。そこまで切羽詰まってしまうと、残念ながら私の会社でもできることは限られてしまいます。

 

会社が倒産するリスクは、ビジネスの行方以上に、融資を受けられるか否かにもかかっています。そのタイミングを逃さないためにも、預貯金の額をしっかりとウォッチしていただきたいのです。

 

現預金チェックを勧めるもう一つの理由としては、自分にプレッシャーをかけ続けるためでもあります。

 

例えば、私の会社では合計で3億4200万円の借入をしていて、今現在、預金として2億円ほどの残金があります。それは余剰資金でもありますが、借入で得た負債でもあります。毎月、その額を見ることで、「これだけの負債があるのだから、怠けず頑張らなくては」と自分にカツを入れる契機にもなっています。

 

現預金のチェックをスタートし、作業に慣れてきたら、「キャッシュ・フロー計算書」の考えに則って、売上やコストもメモしていくと、お金の流れがさらにクリアに見えてきます。

 

その際には、売掛、買掛ベースではなく、売上は入金された時点、コストは支払った時点でメモし、リアルタイムで手元資金を確認するようにしましょう。

 

■中国では、代表取締役を「総経理」と呼ぶ

ちなみに、お隣の国、中国では「総経理」と書いて代表取締役を意味します。そこには「経理ができる人が経営者であるべきだ」という意味合いが込められています。

 

無論、最初からハードルを上げ、簿記や会計について勉強しようとしても“三日坊主”で終わりかねません。

 

まずは簡単な家計簿感覚で、毎月お金がいくら残っているかをチェックしていただきたい。それも他人任せにせず、会社の代表者、事業を担う本人が実践することが肝要なのです。

 

 

田原 広一

株式会社SoLabo 代表取締役

 

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※本連載は、田原広一氏の著書『賢い融資の受け方38の秘訣』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣

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田原 広一

幻冬舎メディアコンサルティング

資金調達のノウハウが知りたい経営者、必読!  起業の喜びも束の間、会社の存続をかけ資金繰りに頭を悩ます日々…。創業から1年以内に約3割の企業が廃業するといわれているなか、生き残るために必要な融資の知識とその活用…

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