最後まで他人事の責任転嫁のプロ
■会社の問題を他人事としてとらえる幹部
以前、離職率の増加に悩む東証一部上場企業の支店長や部長25人ほどを対象に研修を行ったことがありました。まず「今のビジョンや夢、願いはなんですか」と聞くと6割以上が「定年まで自分の部署で大きな問題が起きないこと」、3割の参加者が「PPKだ」と答えました。ピンピンコロリ、つまり死ぬまで元気で最後は苦しまずにころっと死にたいというわけです。誰もが知っている上場企業であっても組織変革や社員の育成をビジョンとして語る幹部は一人もいませんでした。
支店長や部長などの幹部クラスは、年齢で言えば55歳前後、あと数年で役職定年を迎える人たちです。取りあえず部下に「ちゃんとやれよ」と発破をかければ、そこそこの売上は立ちます。あと5年頑張ったら、あとは若いやつがやってくれればいいと思っています。会社の問題を自分事として考えろと経営者が叱ったところで、このようなスタンスの人たちを変えるのは難しいです。
一方、中小企業の幹部に「会社に問題はありますか」と聞くと、「もう数え切れないほどありますよ」「もう諦めてますね」と言います。どうしてかと聞くと、「社長があれじゃあ無理だよ」「業界が沈んでいるんだから業績回復は無理」「会社がこうなったのはコロナのせいであって、俺のせいじゃないよ」「部下にいくら言っても成長しない」「新入社員が使えない」……全部他人事なのです。
幹部が生まれ変わるために必要なのは、幹部が会社の問題を自覚し自分事に感じるようになることです。問題が起こっている構造のなかに自分もいること、そしてその状況を変えられていない自分になにか問題があるのではないかと、思考の方向性を自分に向けることから幹部の変化が始まります。
■「部下を育成するスキルとマインド」の欠如
機能不全に陥った企業では幹部が機能していません。機能していない幹部には共通点があります。幹部なので部下がいるはずですが、自分の業務のみに意識が向き、自分の成果や成長、幸せのみを考えています。つまり、自分のことで精一杯なのです。
実は、ミーイズム(自己中心主義)が跋扈(ばっこ)している会社は少なくありません。中小企業には部下のことを考えていない、ほかの部署のことも考えていない、会社全体のことも考えていないという幹部が多くいます。部下のことを考えるマインドやスキルが幹部のなかで育成されておらず、組織は機能しません。
このような状態になってしまう背景には、大きな構造の問題があります。そもそも中小企業の幹部は、多くが自分の営業数字をもつプレイングマネージャーです。特に営業マンは声も大きく発言力もあり、社内外に顔が広いので幹部になっていくケースが多いです。
そういう人たちの心のなかでは、「俺が頑張っているから会社があるんだ」「俺が売上を稼いでいるんだから俺の言うことを聞け」「俺が正解だ」という気持ちが強まります。
これは悪いことではありませんが、部下を育てるベクトルとは真逆です。なぜなら自分を厳しく律してノルマを課し、結果を考えながら行動することを部下にも求めるからです。「なぜおまえは俺と同じようにできないんだ」「アドバイスしただろう」「去年から何回言ってるんだ」と自分基準で部下を評価するのです。
たいていの場合、部下はそのアドバイスが理解できず、受け止められません。部下はまだ最初の段階で悩んでいるのに、「1日100件飛び込んで訪問してからものを言え」などと言われたら、心が折れてしまいます。名選手は名監督ならずとよく言われるように、優秀な人材が部下を育成するのは容易ではないのです。