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幹部と社長の溝が埋まらない原因
■社内のリーダーが育たない
関西のある地方都市に拠点を置くその会社は、年商15億円、社員数40人の中古車販売会社です。30年前に社長が32歳の時に立ち上げて以来がむしゃらに事業を進め、現在では地域の中堅会社になりました。しかし社員は育っておらず、社長が陣頭指揮を執らないと組織が動かない状態でした。
幹部は5人ですがいくら叱っても成長してくれず、社長は行き詰まって私に支援を求めてきたのです。
ヒアリングの結果、私は幹部5人と社長との相互理解を深め関係の質を改善することが必要だと感じました。そこで幹部を対象にワークショップを3カ月で3回実施し、幹部が考える理想の状態=ビジョンを書き出してもらうことから始めました。
幹部たちが書き出したのは「地域でいちばんの会社だと顧客に認められる」「各自が責任をもって仕事をする」「風通しがいい」「入社してくる社員が夢をもてる会社」などすばらしいビジョンばかりです。
しかし現実は、幹部が感じている状態と真逆ということになります。例えば「地域でいちばんとは言い難い」「問題をすべて人のせいにしている」「風通しが悪い」「入社してくる社員が夢をもつことなど到底できない」という調子です。
私が特に気にかかったのが「社長の顔色が気にならない」「相手に配慮した会話ができている」「思っていることを素直に話す勇気をもてている」というビジョンです。文脈から「社長に思っていることを素直に話すことなど、絶対にできない」「社長は相手の気持ちに配慮した会話はまったくなく、批判ばかりしている」と読み取れ、幹部と社長との関係性の質がかなり低下していると思われました。
■最初の1年目の取り組み
いよいよ組織変革に入ります。まず、幹部5人と中堅社員4人、合計9人のチームで相互理解を深め関係の質を高めることに取り組みました。
支援開始後半年で、幹部と中堅社員の関係の質は若干向上してきました。すると、彼らのやる気を阻害している本当の要因が浮かび上がってきたのです。それは社長自身に育成マインドが不足していて、分析的思考で批判や指摘をしていたことです。
そこで次の取り組みとして「社長のチャレンジ」を追加しました。社長への個人コーチングを強化したのです。
しばらくすると幹部間および幹部と中堅社員との関係性に、一定の変化が見られました。仕事に対する価値観が向上し毎月のグループコーチングにも積極的に参加、発言の量や質が向上するなど、成長が明確に感じられたのです。部門間の関係性もかなり改善しました。
しかし、幹部と社長の間の溝はほとんど埋まっていませんでした。そこで新たな目標設定として、社長の歩み寄りも重視することにしました。
幹部と社長の溝が埋まらない原因は複合的ですが、特に無視できない要素が社員に高圧的に接してしまう社長の振る舞いです。できたことや取り組みを褒めず、足りないところや失敗をこと細かに指摘するマイクロマネジメントスタイルが続いていたのです。
私は契約解除を恐れず何度も社長にぶつかっていきましたが、分厚い壁を感じました。組織変革をしたい、そのためには時間も費用もかけるしできることはなんでもすると言った社長でしたが、自分自身を変えることは至難の業でした。