幹部の育成を優先すると変革が進む
■ビジョンづくりと環境づくり
ビジョンには、財務的な指標以外の目的も必要です。「10億円を売り上げるぞ」と聞いてモチベーションが上がるのは社長だけで、幹部や社員は「それなら俺のノルマはいくら?」という思考にしかなりません。利益を出すことでなにを手に入れようとしているのか、なにを実現しようとしているのかというところがビジョンです。
ワクワクするのであれば「フェラーリを買うぞ」というのが経営者のビジョンであってもかまいませんが、それは個人ビジョンです。経営者のビジョンを実現するために社員が働きやすい離職率ゼロの会社、社員がここで働いていてよかったと思える会社をつくるという共有ビジョンが出来上がらないと、組織変革はスタートしません。このベクトルが明確でないと「仕事が増えるんですが」「仕事の合間に話し合いをするなんて大変なんですが」と、社員に理解してもらえません。
ビジョンを実現するためには、社員たちを巻き込む必要があります。そのために経営者がするべきなのは、細かい指示を出すことではありません。社員が困っていることや必要としている内容を把握し、必要であれば権限を渡したり社内のルールを変えたりするなど環境づくりをして、社員たちを応援することなのです。
■なぜ幹部の育成からスタートするのか
自走型組織は、末端の社員まで巻き込むことが不可欠です。そのため幹部の育成を先に進めておけば変革がスムーズになります。一般的にいわれる幹部とは、経営層にいる上位役職者のことで、具体的には役員や部門長以上を指します。
本来であれば組織変革は経営者からでも幹部からでも若手社員からでも、本社からでも工場からでも、どこからスタートしてもかまいません。なぜなら結局は全員を巻き込んでいくので、どこから始めるかはさほど重要ではないからです。
私も支援する組織の状態を理解しながら、どこにレバレッジポイントがあるのかをいつも探っています。これは非常にアナログですが「さじ加減」としか言いようがありません。ですから、幹部の育成からスタートしてたとえうまくいかなくても、ほかにもアプローチはできます。
ではなぜ幹部の育成から取り組めば変革がスムーズになるかというと「取り組みやすい」「育成しやすい」というメリットがあるからです。
▶取り組みやすい
一般的にはヒエラルキーの下の階層が上の階層に指示をすることはできませんし、現状を変えるために働きかけるのは難易度が高くなります。そのため経営者がまず自分の下の階層である幹部に働きかけることが、組織変革をするうえでは難易度が低くなり、取り組みやすくなります。
▶育成しやすい
経営者と幹部は視野と視座が大きく異なります。もちろん経営者のほうが、広く深くあらゆることを考えているはずです。経営者と一般社員とではさらにその差が広がります。
経営者から見ると、一般社員は考え方が稚拙で非常識なことも多いものです。経営者が一般社員を直接育成すると指導することが膨大になり、負担が大きくなります。一方幹部であれば経営者よりは一般社員に近いため理解してもらいやすく、経営者と一般社員の橋渡しになることができます。また幹部のほうが一般社員より知識・経験が豊富で思考力も高いので、比較的育成しやすいと言えます。
育成の目標は「自発性を高めること」です。そして組織変革において幹部を育成する意味は、「幹部が部下(一般社員)を育成するマインドとスキルを身につけること」です。
もし経営者が一般社員の育成を直接行うと、幹部が部下を育成するスキルを身につける機会を奪うことになります。同時に社員から幹部への信頼も得られなくなり、組織として良い状態になりません。そのため幹部の育成が先に必要なのです。
また幹部の育成から着手すると経営者は、なぜ幹部が成長しないのか、その原因を把握できます。それは「もしかして俺のやり方や振る舞い、行動に問題があるのか?」と気づいて幹部との関係性を見直すことにつながるのです。
経営者と幹部との関係の質を高めることから、幹部の育成がスタートするのです。