目標は「九条ネギで年商1億円を目指す」
十勝のように地域を挙げてというわけではないが、全国の同友会企業の中には、独自の農産品生産により地域の元気に貢献しているところが少なくない。女性活躍の事例で紹介した群馬県の農業生産法人グリンリーフなどもそうだし、これから紹介する農業生産法人、こと京都社長の山田敏之氏も代表的存在だと言ってよい。
山田氏は1962年、京都市伏見区の九条ネギ農家に生まれた。大学を卒業すると大阪のアパレル関連企業に就職、課長にまで昇進したところで、諸般の事情から家業を継ぐ決意をする。その時点での目標は「九条ネギで年商1億円を目指す」という強気のものだった。しかし初年度の売り上げは、父親と必死に働いてわずか400万円、翌年も600万円にとどまった。
言うまでもなく九条ネギは京野菜の代表的な品目である。市場がないはずがない。山田氏はいいものを作ることを大事にしながら、いかに売り上げを上げるか知恵を絞った。行き当たったのがネギの「カット加工」。ロスは少なく、付加価値が上がる。今ではミリ単位のオーダーにも応じるそうだが、問題は売り先だった。目を付けたのがチェーン化の進み始めたラーメン店。一風堂、天下一品など有名チェーンを次々に取引先にし、売り上げは億をはるかに超えていく。
こうなると今度は自家栽培では供給不足になる。そこで外部購入を始めることにし、やがて有機栽培に手を染めるとともに、品質等を均一化するためもあり生産者グループ「ことねぎ会」を結成する。2009年のことだ。山田氏は地元から始めて京都府内のネギ農家をそうした形で組織化、活性化していっているのだ。農家は品質と安定供給のみを考えればいい。販売はこと京都が責任を持つという形で、農家にとって取り組みやすい。
それだけでなく、山田氏は社内に独立支援研修生制度を創設、農業の担い手を育てる一方、彼らが農地を賃借することで府内に耕作放棄地が広がるのを防止する努力も続けている。
こう記してくると順風満帆のように見えるが、多角化で失敗したり、また18年前後は西日本が台風や風水害に直撃され、九条ネギ生産も打撃を受けたりと、いくつもの苦難に直面してきた。しかし19年~20年度は本来の成長軌道に戻り、グループ売上高20億円、こと京都単体で14億円を達成できる見通しだという。ことねぎ会で生産されたネギは、地理的表示保護(G1)制度に対応、商標として登録されており、他社は使用できないブランドとなっている。
山田氏は、このことねぎ会をも含んだこと京都のビジネスモデルを生かし、さらに壮大な実験を始めようとしている。全国のネギ流通を革新、ネギ農家をグループ化して供給と価格の安定を図るために国産ネギ専門商社「こと日本」を100%出資で、14年に設立したのだ。20年をめどに東日本での加工・物流拠点を静岡県内に建設する予定だ。また九条ネギにとどまらず京野菜を、品質を落とすことなく全国、場合によっては海外まで売り込むために、岩谷産業と組んで事業化する方向で話が進んでいる。
山田氏は京都という一地域の枠を超えて、地域や農業の活性化に挑んでいると言えるだろう。ちなみにこと日本の本社は、先の増田陸奥夫氏が理事長を務める日本食糧連携機構の日比谷のオフィスと同居している。
清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー
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