6次産業化で実現した「酪農は成長産業」
■6次産業化に挑戦する牧場
前田氏が率いるとかち支部農業経営部会は現在、会を挙げて「6次産業化」に向けて努力を続けている。周知のように、農業(1次)プラス加工(2次)プラス流通・販売(3次)、合わせて6次産業化農業と呼ぶ。今村奈良臣東京大学名誉教授が理論化した、農業の付加価値を高める取り組みで、農林水産省も力を入れている。
前田氏もこうした考えを同友会で学んだわけだが、まだ加工した商品を自ら販売するところにまで至っていない。そこで19年の夏から一つの取り組みを考えている。「ヒマワリを栽培し、迷路を作ってお客さんに来てもらう。入場料500円で、ポップコーンを手に回ってもらい、農業にも関心を持ってもらう」(前田氏)
周辺の温泉や道の駅とヒマワリ畑の迷路を組み合わせて観光客を呼び込むとともに、コーンやヒマワリの種を持ち帰ってもらいパンを作ってもらう。そうした形で農産物を拡販し、地域の経済循環を高めていく。併せて農業への関心を高めていこうというのだ。前田氏は、今後10年はこのような形で生産体制や販路の確立を図り、農業による経済循環の形成に取り組み、その後の55歳からの10年は自社を含め、農業後継者を集め育てていきたいと意気込む。
とかち支部農業経営部会では「農業経営・法人化」「6次産業化・販路開拓」「農業新技術」など6つのカテゴリーで、例会が随時開かれている。なかでも関心が高いのが「6次産業化・販路開拓」「農業新技術」などの例会だという。
帯広市南西部、川西地区で87ヘクタールの農牧草地に330頭超の乳牛を飼い、自社製の牛乳、ヨーグルト、バター、チーズを販売している十勝加藤牧場の加藤佳恵氏も、「6次産業化・販路開拓」グループの有力メンバーである。
同牧場は現会長の賢一氏が1975年にカナダ研修などの後に入植、酪農をスタートさせた、比較的歴史の新しい牧場だ。それだけに他の牧場にない特徴がいくつもある。飼料を有機肥料で栽培、かつ90%ほどを自給している点もそうだし、北海道はもとより全国的にも珍しいジャージー種の乳牛を87年から導入、今では全頭数の3分の1にまで増やしていることもそうである。
ジャージー種は1頭当たりの牛乳生産量がホルスタイン種に比べ3分の2程度にとどまるため、単価を高くせざるをえない。
しかし栄養価が高くおいしいために、それを評価してくれる乳牛メーカーに出荷するとともに、2006年からはヨーグルトなど加工品も手掛けるようになった。その後、製造設備を借りてチーズやバターの生産にも乗り出した。賢一氏の販路拡大の苦労がしのばれる。
現在、乳牛飼育と搾乳は、長男で社長職を継いだ聖墾氏が、チーズ、バターなどの製造・販売は次女の佳恵氏が担当している。会長の賢一氏はとかち支部農業部会の有力メンバーだったが、現在は佳恵氏がその役割を引き継いでいる。「最初は同友会活動にどんな意味があるのか懐疑的でしたが、例会でいろいろな学びがあり、また商談会や収穫感謝祭などで新たな販路が開かれたりするので、今では欠かせない活動の場になっています」と健康的な笑顔で語る。
今後、チーズ、バターの付加価値をさらに高める努力をする一方、かつて同友会後継者の勉強会「あすなる会」に参加していた、兄の聖墾社長と協力、経営指針づくりに挑戦したいと経営革新にも意欲的だ。
農業は効率よく生産でき、付加価値を確保できれば、地域経済の内発的発展を担う極めてメリットの大きな産業である。それに誘致企業のように、農地はどこか他のところへ逃げていくわけではないし、6次産業化へと進めば、地元の人中心に相当な雇用も生み出す。