(※写真はイメージです/PIXTA)

「十勝では農業は成長産業なのです」と関係者は口を揃えます。北海道中小企業家同友会とかち支部農業経営部会は、会を挙げて「6次産業化」に向けて努力を続けています。そうした動きが全国に広がりつつあります。清丸惠三郎氏が著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)でレポートします。

電子レンジで簡単に食べられるポップコーン

■ポップコーンの商品化に挑む

 

十勝地域(北海道十勝総合振興局管内)は人口34万人ながら、同友会とかち支部は農業経営部会の隆盛もあり、道内第2位、札幌に次ぐ会員数を誇る。刺激されたかのように道内各支部でも農業関連部会が発足、現在8支部にまで広がっている。

 

2000年代に入ると、道内に限らず全国の同友会でも農業関連部会を設けるところが目につくようになってきた。03年の宮城同友会農業部会(現・食と産業創生部会)、12年の愛知同友会農業部会、15年の山形同友会の食・農部会等々で、これまた8道県にまで拡大している。同友会は長年、地域の衰弱は日本経済と組織の死活問題だと主張、活性化に努力してきたが、経営資源である人、物、金ともに深く地域と関わっている農業分野へと、その活動が広がっていることは、その新たな展開の表れであるとともに、必然でもある。

 

こうした躍進を続けるとかち支部の部会長として現在、農業経営部会を引っ張っているのが前田農産食品社長の前田茂雄氏だ。前田氏は1974年生まれ。東京農業大学を出るとアメリカの大学に1年半ほど留学、25歳で就農している。

 

帯広郊外本別町の生家は曽祖父の代に岡山から入植、祖父、父親の代まではデンプン工場も経営していたが、72年には閉鎖、まったくの農業法人となっている。

 

当初、前田氏は父親の下で手探りしながら小麦などの生産技術向上に取り組んだが、アメリカ留学の経験から、さらなる規模拡大に目が向いていったという。結果、地域の他の農家より単位当たり収量が増え、規模も次第に拡大できたのだが、数年後、農林水産省の政策が変わり、作付制限が導入されることになった。これを契機に、前田氏の挑戦が本格的に始まることになる。いかにも大地に根差した農業者といった逞しい風貌の前田氏は、自らの歩みを次のようなたとえ話で説明する。

 

「みんなが高速道路に乗るのだが、俺の車だけは砂利道へ入っていった。それもこの間まで雑木林だったところ。ゴールも見えないけれども、いつかこの道が貫通し、ゴールも見え、舗装されると信じて踏み込んだのです」

 

安易な道を選ばず、苦しいかもしれないが独自の道に挑戦してきたということであろう。

 

その第一弾が、自ら収穫した小麦を小麦粉に加工、直販することであった。小麦生産者が政府の財政支援を受ける一方、自社の顧客を持っておらず、収穫した小麦を農協や仲卸などに納めてこと足れりとしている、それゆえ政府の作付制限を受け入れざるをえないのだと考えたからだ。

 

前田氏は道内の製粉会社に製粉を依頼、それを夫人の実家のある横浜市近郊のパン店に飛び込みで持ち込んだ。「自分たちが作った小麦の味を知りたい」という思いもあってだ。2週間後、パン店から「久しぶりに特徴のある粉に出合った。売ってほしい」と電話があった。味が認められただけでなく、これを契機に小麦粉の直販ルートが開かれたのだ。

 

従来、前田農産食品は113ヘクタールの畑地で春・秋の小麦を中心に、甜菜、豆類を生産し、かたわら小麦粉を直販してきたが、2013年から日本の農業生産者では初めてといわれる挑戦を始めた。ポップコーンの製造と原料である爆裂種トウモロコシの栽培だ。北海道農業の弱点である冬場の仕事の確保と、輪作体系の整備・強化、そして消費者への接近の3つが狙いであった。

 

自ら2度、3度とアメリカの生産農家に出向いて爆裂種の栽培やポップコーンの製造方法を学んだものの、初年度、2年目と10トン余りのトウモロコシをすべてフイにするなど、失敗が続いた。

 

ようやく爆裂種トウモロコシが栽培できても、今度は手作りのポップコーン製造機械の不具合が起きる。次々と生じる問題を社員とともに克服して、電子レンジで簡単に食べられるポップコーンがようやく製品化できたのは16年春。

 

現在、市販価格(税込)で1個230円の自社ブランド「十勝ポップコーン」を50万個生産、大手スーパーマーケットなどに出荷している。北海道庁や農林水産省などから次々と賞を受けた前田農産食品のポップコーンは、歯ごたえがよく甘みもあってとてもおいしい。販売は順調に伸び、正社員1人に3人のパート社員を新たに雇用、地域の活性化に役立っている。


 
前田氏の挑戦に対する注目度は高く、記者が尋ねた日にも、民間ベースで食農連携を推進しようという活動で知られる日本食糧連携機構の増田陸奥夫理事長(前農林中央金庫副理事長)一行が訪れていた。

 

次ページ6次産業化で実現した「酪農は成長産業」

※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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