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活況の沖縄経済を支える地銀連携
那覇市の中心部にある沖縄海邦銀行本店。役員応接室でインタビューに応じてくれた上地英由頭取はいかにもエネルギッシュな風貌に加え、ざっくばらんな語り口もあって、バンカーというより企業経営者といった印象を与える。ただし経歴は1976年に琉球大学を卒業すると同時に当時の沖縄相互銀行(現・沖縄海邦銀行)に入行。以来、海邦銀行一筋。頭取就任は2012年である。
風貌だけでなく、経営の舵取りも相当に挑戦的で、金融庁が志向するリレーションシップ・バンキング(リレバン)に関しては、県内に本拠を置く琉球銀行、沖縄銀行という地銀2行に比較してより積極的だと言われている。ちなみに同行は預金残高6433億円余(18年9月中間期末)で、沖縄県内にある3つの地銀、第二地銀の中では最も規模が小さい。
「ここ10年ほど、沖縄経済は活況が続いています。堅調な官公需に加え、観光客増がホテル建設を促し、建設関係は大手、中小問わず好調。起業も活発で、事業所数は増加が続いています。人口も多くの他県と異なり、(首都圏と並んで)今後10年間は増加する見通しですので、他県のように銀行が多すぎるから1県1行に集約しないといけないという状況ではありません。それに沖縄には信用組合はなく、信用金庫も1金庫ですから」(上地氏)
その点では地域金融機関の再編を強力に促しているとされる金融行政に必ずしも賛同しない姿勢を明らかにしつつ、上地氏はこう述べる。
「森信親・前金融庁長官の時代になると、地域金融機関はそのありようを変えるべきだとの強いメッセージが出された。法人・個人双方に対する顧客本位の密着営業を経営の根幹に据えなさいというのがそれで、私個人はもっともなことだと思っています。われわれは前身が無尽会社であったにもかかわらず、普通銀行に転換する30年以上前から、地銀と同じスタイルで経営を行ってきた。しかし資金が必要な地元の個人、小規模業者を含めた中小企業に融資する第二地銀の本来的な役割を改めて考え直し、信金さんが目を向けている中小・小規模な個人・法人にも目を向けるべきだとの発想で、ここへきて動き出しています。その点で地銀2行さんと若干異なる営業スタイルに変わってきています」
こうした海邦銀行と懇談会というレベルを超えて連携を深めつつあるのが、沖縄県中小企業家同友会である。沖縄同友会は女性代表理事、副代表理事が次々と就任する一方、会員数の増強も目覚ましい、先進的で活力ある同友会組織である。
すでに触れたように、中小企業家同友会は中小企業にとってのよりよい経営環境づくりを目指して「金融アセスメント法制定運動」を2000年から推進してきた。中心になったのが中村高明・福岡同友会代表理事(現・中小企業家同友会全国協議会副会長)であり、その成果が03年に金融庁から発表された「リレバンの機能強化に関するアクションプログラム」であった。
その後、中同協並びに各都道府県の同友会はアクションプログラムに基づき、各金融機関、団体と懇談を重ねてきた。同友会役員向けテキスト『同友会運動の発展のために』では自治体との連携強化を謳うとともに、金融機関との関係についても「地域経済の血液である資金供給をつかさどる金融機関との連携は特に重要です。『地域経済の繁栄』を共通理念に、地域金融機関との懇談を定期化し、中小企業金融政策の充実のために連携していく姿勢を重視しましょう」と強調している。
こうしたスタンスの同友会側にとっても、地域金融機関側にとっても画期となったのが当時の森金融庁長官の就任であり、新たな金融行政方針の発表だった。地域金融機関が「利用者に信頼される機関になること、地域に密着したサービスを提供する機関になること」と強く変身を促す森長官の下で15年からスタートした新たな金融行政は、長年、同友会が提唱してきた金融アセスメント法に近づく内容だと理解されていると言っていいだろう。