【関連記事】平均給与「433万円」より厳しい…「日本人の現状」
高齢父を施設に入所させたいが、資産状況が不明で…
今回の相談者は50代会社員の松田さんです。高齢となった父親の健康と資産状況に懸念があり、筆者の事務所を訪れました。
松田さんの母親は数年前に亡くなったのですが、そのショックからか、父親はそれ以後、周囲に心を閉ざしてしまったように見受けられるといいます。松田さんは弟がいる2人兄弟ですが、いずれも共働き家庭で忙しく、まめに父親の面倒を見られないため、高齢となった1人暮らしの父親を心配していました。ある日、思い切って施設への入所を持ち掛けたところ、つれない態度であっさりと追い返されてしまい、ますますコミュニケーションできなくなりました。
弟と話し合った結果、父親の態度は金銭的な不安が理由なのでは思い至ったそうですが、話ができず実際のところは不明です。
「父は一般企業のサラリーマンでした。両親とも真面目で倹約家で、贅沢した記憶はありません。僕も弟も、大学卒業後すぐに家を出たので、以降の両親の生活状況はわかりませんが、もしかしたらお金がないのかもしれないと思いまして。もちろん、その場合は僕も弟も援助するつもりですが、なにしろ話し合いができないのです」
相談からわずか1ヵ月後、松田さんの不安は的中しました。父親は風呂場で転倒し、骨折してしまったのです。父親は入院し、ひとり暮らしできなくなりました。
松田さんと弟は父親のいない実家に戻り、資産に関係する書類を探しました。
「入院時、父親は仏間のタンスから通帳を出すよういいました。その通帳には200万円ぐらいの残高があり、キャッシュカードが挟まっていました。年金が振り込まれる口座で、このお金で生活していたのでしょう。その後、弟と家を調べたら、寝室のタンスから書類や通帳が出てきました。ざっくりですが、定期預金が4000万円、有価証券が2000万円ぐらいです。父名義の自宅とそれで全財産でしょう。正直、意外と持ってるなと…」
「家探しみたいなまねをして、激怒するのでは…」
松田さんが父親の自宅不動産を調べたところ、評価額は約1500万円でした。そのため、預金や有価証券などを合わせると7500万円以上にのぼります。このままでは相続税の基礎控除を超えてしまい、相続税がかかりそうです。
筆者は、金融資産を活用し、生命保険への加入や収益不動産の購入、孫への贈与等による相続対策を提案しましたが、松田さんは浮かない表情です。
「父親不在の間に家探しのようなまねをして、激怒するのではないかと…」
「相続対策は親のためでもある」と、理解を促して
筆者は松田さんへ、これを機に説得を試みるよう提案しました。いまから生前対策を行うことで相続税も節税でき、老後のサポートも、父親の財産管理しやすくなると説明するのです。
「サポートのためといえば、受け止め方も違ってくるかもしれませんね。現状のままでは数百万円単位の相続税が発生するかもしれないといえば、父も態度を変えるかもしれません…」
その後、松田さんは弟と父親の病院を訪れ、話を切り出してみました。勝手に通帳を見たことを詫びながら、相続税のことや、今後のサポートのことを話し、いまなら対策の手段があると説明したところ、静かに話を聞いてくれたそうです。
「父も体力の衰えを自覚したのでしょうか。僕たちのことを頼るような態度が見えました。〈僕も弟も父には不安なく生活してほしいし、築いてきた資産も守りたい〉と腹を割って話したことで、わかってくれたようです」
松田さんはこれから、弟さんと連携しながら対策を進めていく予定です。
相続税の生前対策には、本人の意思確認が欠かせません。資産状況を伝えたがらない親には、本人の意思や気持ちを聞くことで安心してもらい、老後のサポートをする気持ちをしっかり伝えていきましょう。相続対策は子どものためだけでなく、親自身のためでもあるのです。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】