(※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業家団体が中小企業振興策を自治体に働きかけ、中小企業重視の姿勢を明確にするとともに、各自治体の特性を活かした「中小企業振興基本条例」を制定すべきだと動き始めています。どのような効果があるのでしょうか。清丸惠三郎氏が著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)でレポートします。

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田川市の未来を考える「報告会」

福岡県田川市は筑豊炭田華やかなりし頃、炭鉱で栄えた町である。しかし周知のように1960年代に起きたエネルギー革命により、ピーク時10万人を超えていた人口も激減、直近では5万人を割るところまできている。炭鉱閉山後、政府などの資金が入り炭鉱住宅やボタ山が整理され、今日の田川市はこぎれいな地方都市という印象だが、足元では人口減、少子高齢化など地域の衰弱が確実に進んでいることは否めない。

 

その田川市で、2018年11月13日夕刻、「『中小企業振興基本条例』を活かす! 田川市中小企業振興基本調査報告会」なる催しが、市内の福岡県立大学講堂で開かれた。主催は田川市産業振興会議で、商工会議所など市内の中小企業団体、田川信用金庫など市内の金融機関、田川市や県の出先機関が共催していた。

 

もちろん福岡県中小企業家同友会田川支部も加わっている。主催者側は来場者について「200人にどれだけ上乗せできるか」と当初かなり心配げだったが、開いてみると300人を上回る入場者となり、「盛大な会になった」と顔をほころばせた。

 

報告会は2部構成で、1部の冒頭では地元の西田川高校、東鷹高校、田川科学技術高校(いずれも県立)の3つの高校の生徒グループが、「田川の未来を考える」とのテーマで、自分たちがこの町で創りたい会社・事業を想定、企業理念、経営方針、経営計画などを策定、発表し、2部では立教大学CSI(社会情報教育研究センター)の櫻本健准教授らが、主催者である田川市産業振興会議が行った地元中小企業へのアンケート調査の分析結果を報告した。

 

高校生の発表は西田川高校が「インターネットテレビ局の開設」、東鷹高校が「AIを活用した休耕田を有効活用する無人農業」、そして田川科学技術高校が「ごみの地産地消を可能にするごみ発電所」という内容で、発表により地域の未来が膨らんでいくのが感じられたからだろう、来場者から大きな拍手が送られた。

 

発表までわずか3カ月ほどしか準備期間はなかったが、同友会の会員の熱心な指導が高校生を燃え上がらせ、好結果を呼び込んだと言っていい。来場者の中にはこの催しのためにシンガポールからわざわざ駆けつけてきたという人もいて、「地元高校生のアイデアに光るものがありました。実現のための支援をしたいと思いました」と感動の声を寄せている。

 

こうした催しがなぜ開かれることになったのか。話は13年の6月にさかのぼる。田川市役所産業振興課内では、町の衰退を止めるにはどうしたらいいかとの議論が続けられていたが、市内に2000社余りある中小企業が元気になり、雇用を生むようになれば、人口減少が止まるのではないか、町が消滅危機から免れるのではないか、との意見が出た。

 

話はさらに一歩進んで、それには何らかの指標、つまり条例が必要ではないかということで、勉強を始めた。たまたま中小企業振興基本条例と検索すると、中小企業家同友会がヒットした。そこで田澤好晴課長が福岡市内の福岡県中小企業家同友会を訪ねることになった。この時点で、田川市にはまだ同友会の支部はなかった。

 

次ページ条例制定運動に力を入れる理由

※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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