(※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業家団体が中小企業振興策を自治体に働きかけ、中小企業重視の姿勢を明確にするとともに、各自治体の特性を活かした「中小企業振興基本条例」を制定すべきだと動き始めています。どのような効果があるのでしょうか。清丸惠三郎氏が著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)でレポートします。

どのように田川市を元気にするか

田川市の条例もこうした理念条例のパターンを踏襲しており、15年9月、先の勉強会から出された素案をもとにつくられた議案が市議会で議決され、施行されることになった。前文の冒頭部分だけを紹介する。「田川市は、田川盆地の中央部に位置し、市の中央を遠賀川の支流、彦山川、中元寺川が貫流し、美しい田園と河川の風景が見られる自然豊かなまちであり、『炭坑節発祥の地』として石炭産業の隆盛とともに発展しました。しかし昭和30年代の国のエネルギー政策の転換による石炭産業の衰退は、石炭産業を中心として発展してきた本市に大きな衝撃を与えました。

 

その後、本市は、地域再生に向けたまちづくりを推進してきましたが、石炭産業に代わる基幹産業の構築には至っておらず、現在、本市事業所の大多数を占める中小企業が地域経済の基盤をなしています。これら中小企業は、地域経済の主要な担い手として本市を支え、景気低迷期においても、経営努力により活路を見出してきました。(中略)

 

ここに、中小企業の振興を本市の重要政策と位置づけるとともに、中小企業に関する基本理念及び基本方針等を定め、中小企業が力を発揮することで地域経済に活力を生み、市民やそこで働く人々が生きがいと働きがいを見出すことができる豊かで住みよいまちの実現に寄与するため、この条例を制定します」


 
実のところ自治体の中には、振興基本条例をつくっただけでおしまい、というところもないではない。しかし基本理念である「三つの目的」の中に「よい経営環境をめざす」と謳い、三つの理念の一つに「国民や地域と歩む中小企業」を据えている同友会としては、そこでとどまっていては何の意味もない。条例が施行されると、16年11月に田川市産業振興会議が条例に基づき設置される。

 

会長には中山氏自らが就任した。自治体側の職員と参加する中小企業経営者などが地域の問題点を確認し、解決に向けてベクトルを合わせていく必要があるからである。この時点で、中山氏らは市側と協議し、「まず中小企業の現状を調査し、そのうえでビジョンをつくること、さらにそれを受けて中小企業振興基本計画を策定し、アクションプランへと進めていくこと。そこに至る見取り図を作成したうえで実務に入っていくことを確認しました」と言う。

 

実務を担う部隊として、翌17年4月には31人からなる「実務責任者会議」が設置され、堀氏が委員長に就任。ほかにも4人の同友会会員がメンバーに加わった。まず行うことになったのが市内中小企業の実態や生の声を聞くためのアンケート調査。文案は外部の専門機関に委託せず、自分たちの手でつくった。11月、2511社へ調査票を郵送、12月の締め切り時点では12%余りの回答にとどまったために、「会議のメンバーで手分けをして、最終的には35・7%まで引き上げることができました」と堀氏は振り返る。

 

この時点で、堀氏らは「アンケートの分析結果を中小企業関係者だけでなく、一般市民にも届けたい。それにこの町を元気にするには、卒業すると都会へ出ていってしまう高校生をいかにとどめるか、いかに地元中小企業に目を向けてくれるようにするかだ。そのためのきっかけづくりを、これを契機に行えればいい。高校生のキャリアプランの形成にも役立つような機会にもしたい」と考えていた。そこで出てきたアイデアが、高校生に架空の会社を設立してもらい、同友会でいう「経営指針書」をつくってもらおうというものだった。

 

前述の課題に対して生徒たちは熱心かつ真面目に取り組み、西田川高校はエボリューション、東鷹高校はSPファーム、田川科学技術高校はスマイルメーカーという架空の会社を設立し、地元企業の会員経営者が付き、それこそ寝食を忘れて支援した。冒頭に紹介したように報告会での結果発表はとても好評で、2019年以降は前年参加できなかった田川高校と福智高校も加わり、市内近隣5校が全部参加することになったという。狙い通り、高校生の地元への関心は着実に深まりつつある。

 

二場公人田川市長の『中小企業が田川を変えていく』に寄せた挨拶に発表会の成果は集約されている。

 

「11月13日に開催されました『報告会』では、田川地域の未来について、地元3校に発表いただきましたが、地域の現状や課題を分析したうえで、『エネルギーシフト』や『新産業創生』等をテーマに経営指針書としてまとめ、新しいアイデアをいただき、いずれも素晴らしい内容で感銘を受けました。

 

今回の取り組みが高校生の成長に繋がったことは言うまでもありませんが、学校教育の段階から中小企業の存在意義を伝えることで、地元での就職や地元回帰に繋がり、新たな可能性が生まれることを大いに期待できる内容だったと思います」

 

ちなみにアンケート分析結果の報告は「人手不足に悩む事業者が多い中、地元の若者を雇用し、育成している企業ほど伸びる傾向にある」などといったもので、この分析結果は今後の地域ビジョン、基本計画の策定に役立てられることになっている。

 

清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー

 

 

 

※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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