日本の周波数オークションをどうする?
日本でもバブル経済の頃に、絵画や土地から果てはチューリップの球根までが投機の対象に見られました。バブルが崩壊した後の現在でも、絵画は財テクのための商品として扱われているのです。
世界の美術品オークションの市場はどのくらいの大きさなのでしょうか。2019年、世界最大級のアートフェア「アート・バーゼル」とスイス最大の銀行UBSは、世界の美術品市場の分析レポートを公表しています。レポートによれば、市場規模は推計で641億ドル(およそ6兆7500億円)にも及びます。世界のオークション取引の中心を占めるのは、美術品であるといえます。
また、オークションの考え方は、実は美術品の取引に限らず、政府が行う政策にも応用できます。2020年のノーベル経済学賞を受賞したロバート・ウィルソン氏とポール・ミルグロム氏は、オークション理論の発展と実用、それによる社会への貢献が受賞の理由となりました。
2人とも米スタンフォード大学の研究者で、経済学に多数の業績を残しています。中でもこのオークション理論の発展は、採掘権や不動産、電力、公共工事など、従来は異なる取引の仕方がされてきた分野にオークション方式を導入する道を開きました。実務的な意味でも功績が評価され、ノーベル賞を受賞したのです。
特にアメリカで導入と実用に成功し、日本でも注目されているのが「無線周波数のオークション」です。
周波数は、テレビやラジオの放送や、携帯電話などの通信に使われる電波周波数のことです。現在、日本は許認可制です。電波法にもとづき、総務省が事業者に対して審査と周波数の割り当てを行う形となっていて、電波利用料も事業者の共益費として位置付けられた非常に安い金額です。
現在の許認可制に対して、電波オークションはもっとも高い値段で買ってくれる人に周波数を割り当てる考え方です。簡単に言えば、その電波を一番うまく使える人に使わせよう、ということです。また、電波は元々国民共有の財産ですから、公平に競りにかけることで非常にクリーンな取引ができるのです。
許認可制の問題のひとつには、政府と事業者の癒着ちゃくがあります。オークションを導入すれば、役人に対するおかしな接待で電波が割り当てられるという懸念を持たれることもなくなります。
日本で電波オークションを導入すると、政府の利用料収入も現在とはかなり変わります。外国ですでに導入された実績からの推計では、約1兆円の予算が生まれると言われています。
日本は、国民の税負担率が非常に高い国です。毎年、財務省は租税負担率と社会保障負担率を合計した国民負担率を発表しています。令和元年(2019)度の実績で44.4%、令和2年度の実績見込みは46.1%、令和3年度は見通し値ですでに44.3%となっています。財政赤字を加えると、50%を超える数字が公表されています。
たとえば消費税の税率当たりの税収額は、1%で大体2兆円と言われていますから、電波オークションが数兆円の国庫収入となるなら、その分消費税率を下げることができるのではないかと思います。実際にウィルソン氏とミルグロム氏がノーベル経済学賞を受賞した際も、電波オークションによる国庫収入増によって、広く納税者への恩恵となったことも功績として挙げられています。
日本でも主に生鮮品の取引の際、卸売市場で競りが行われているので、決してオークションの手法は馴染じみのないものではありませんし、競争入札も行われている分野がありますが、政策面への本格的なオークションの活用はまったくと言っていいほど進んでいません。
その結果、放送・電波事業で何が起きたのかといえば、他国に比べて高い利用料金、既得権益者による寡占とサービスの低下、新規参入による新たなサービスが市場に現れることの阻害など、すべて利用者の不利益です。
日本がいつの間にか多くの分野で先進国標準から引き離されてしまっていることは、様々な許認可行政や規制にまつわるOECD(経済協力開発機構)の指標に表れています。OECDに加盟している各国の先行事例を見習っていくことも必要になっているのです。
渡瀬 裕哉
国際政治アナリスト
早稲田大学招聘研究員
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