(※写真はイメージです/PIXTA)

アメリカの中古車卸市場のオークション会場で目撃した光景がベンチャー誕生の瞬間だった。ディーラーたちは躊躇することなく中古車を落札していった。一般の購入者はこうはいかない。それはなぜか。ダグ・スティーブンス氏が著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)で解説します。

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    パンデミック後も、時代を超えて消費者が抱いている問いかけが少なくとも10種類ある。消費者は、この問いかけに対する答えを求めている。しかも、頂点に君臨する怪物企業やミニマーケットプレイスでは答えにならない問いかけがあるのだ。

     

    あなたのブランドが、こうした問いかけに対して明快な答えとなれば、特定のカテゴリーでしっかり差別化ができるだけでなく、それなりに抜け目のなさもあれば、規模に似つかわしくないほど大きな売り上げと利幅を確保する収益力も発揮するはずだ。

     

    【図】10のリテールタイプ

     

    ⑨「門番」型

    ■消費者の問いかけ「必要な商品はどこで手に入るの?」

     

    ショッピングモールにいるとしよう。今日はメガネの新しいフレームがほしくてやってきた。エントランスで店舗ガイドを見たところ、レンズやフレームを扱っている店は3つあることがわかった。せっかくなら上手に買い物をしたいと思い、3店すべて眺めてみることにした。ところが3店目まで訪れたところで、あることに気づく。

     

    3店揃いも揃って、品揃えも商品も価格設定も似たり寄ったりなのだ。結局、こんな偶然もあるんだなと思いつつ、購入することになる。

     

    だが、偶然の一致どころではない可能性が高いのである。何しろ世界のメガネ市場規模は1000億ドルと言われ、そのかなりの部分を2社が支配しているからだ。フランスのレンズメーカーであるエシロールが市場シェア45%、イタリアのフレームメーカーであるルックスオティカが同25%を押さえていて、この2社だけで世界に14億人以上のユーザーを抱える。

     

    2018年3月にアメリカとヨーロッパで、この2社の経営統合が承認されて合併が成立し、厳密な意味での独占とはみなされないものの、業界に衝撃が走った。もっとも、関係者が青ざめたのはこれが最初ではない。

     

    合併に先立つ2014年、私はカナダの検眼士(視機能の専門家、訳註:日本には同等の国家資格がなく、眼科医のみ)団体の会合での講演に招かれていた。当時、業界トップ企業の1つであるエシロールが、オンライン専業のコンタクトレンズ販売を手がけるカナダ企業のクリアリーコンタクツ(現クリアリー)を買収したというニュースが流れたばかりで、関係者は動揺を隠せないでいた。

     

    クリアリーは、検眼士らアイケアの専門家にとって、直接の競合相手だった。クリアリーのオンラインショップでは、顧客が直接、処方箋情報を入力できるため、検眼の手間をまるごと省くことができる。それだけに検眼士の間では、自分たちがバリューチェーンから閉め出しを食いかねないとの不安が広がっていた。

     

    くだんの検眼士団体では、刻々と変わる小売りの環境、分野を問わずネット販売がもたらす脅威、検眼士が顧客対応に関して変革すべきこと、競合への反撃に必要な変革について、会員に正しく状況を判断してもらいたいとの思いから指南役を探していたのである。まさに今、目の前で進行している戦いである。

     

    もっと新しいところでは、合併後のエシロールルックスオティカが、業界第2位のグランドビジョンを83億ドルで買収する方向で交渉に入った。買収が承認されれば、エシロールルックスオティカ帝国の流通網に、最大7000店が新たに加わる可能性がある。

     

    メガネ業界に、エシロールルックスオティカという巨獣と戦える企業はあるのか。ないわけではない。簡単に戦えるのか。そんなことは絶対にない。

     

    エシロールルックスオティカのような「門番」型のブランドは、規制面や金融面の参入障壁を含め、あの手この手で地位を守り抜こうとする。独占あるいは企業数社による寡占のかたちで市場を支配することも少なくない。「門番」型は、ブランドの競争力を守り抜くため、周囲に濠ほりを巡らせることに一心不乱にエネルギーを傾け、努力を怠らない。

     

    そのためには、政府へのロビー活動は言うに及ばず、手当たり次第の合併・買収やライセンスの買い占めなど、ありとあらゆる手段に打って出る。とてつもない市場シェアからもわかるように、「門番」型は、トップオブマインド(誰もが最初に思い浮かべる認知度)と、流通面でのアクセスの利便性という強力な組み合わせに大きく依存している。

     

    だが、どのカテゴリーにせよ、「門番」型になれば陰口を叩かれるのは宿命である。ひとたび天下を取ると慢心を生みやすい。だから「門番」型は、やんわりと言えば顧客サービスが可もなく不可もない印象しか残らない事態に陥りやすい。さらに、身内の業界で競争がなくなれば、常識はずれの法外な小売価格やとんでもない利ざやを設定することも増えてきて、価格と価値のバランスが崩れがちだ。

     

    したがって、競争を阻害する障壁を築くと、短期的には自社の保身に役立つかもしれないが、次の節で紹介する「背教者」型ブランドによる攻撃にまったくもって無防備である。

     

    次ページ実質最初の7日間が試乗期間になるシステム

    ※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    ダグ・スティーブンス

    プレジデント社

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