(※写真はイメージです/PIXTA)

今、世界から注目を集めているのが、アリババが推進する新しい小売戦略「ニューリテール」だ。アマゾン、ウォルマートも真似るという「ニューリテール」とはいったい何か。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

パンデミックはビジネスを殺すのか?

■世界最大の物流網を運営する京東商城(JDドットコム)

 

パンデミックはビジネスを殺す。同時にビジネスを生み出す力もある。京東商城(JD.com)も、そんな混乱から誕生した経緯がある。

 

前身は1998年に劉強東が北京の電気街に設立した4平方メートルほどの小さなエレクトロニクスショップである。2003年にSARSが流行したとき、劉はインターネット上での販売に商機があると気づいた。この時点で店を閉め、2004年にはオンライン専業の小売業者に転換した。

 

そこから急成長が始まる。2007年、最新鋭の統合型サプライチェーンを構築し、配送のラストワンマイルに至るまで、商品流通を取り巻くあらゆる要素をコントロールできる体制を築き上げた。1年後には一般雑貨も取り揃えるようになった。2010年、京東は、オンラインマーケットプレイスのプラットフォームを立ち上げ、取扱商品数を飛躍的に拡充した。

 

2014年にインターネット関連企業のテンセント(騰訊)と提携したことで、状況はがらりと変わる。「中国のフェイスブック」とも呼ばれるテンセントは、京東の株式18%を取得しただけでなく、テンセントのインスタントメッセンジャーであるウィーチャット(微信)のプラットフォームを独占的に利用できる権利を京東に与えた。

 

ウィーチャットは、単なるメッセンジャーではなく、膨大なサードパーティのアプリも取り込み、配車サービスやSNS、オンラインショッピングまで詰め込んだ、「デジタル版アーミーナイフ」とも言うべきツールだ。この提携を機に、10億人を超えるウィーチャットユーザーが潜在顧客となるチャンスが京東に転がり込んだ。

 

京東に秋波を送ったのは、テンセントだけでなかった。ウォルマートも京東と手を組む計画を練っていた。2016年6月、ウォルマートは中国でつまずいていたEC進出を断念し、通販サイト事業を京東に売却する代わりに、京東の株式.5.8%を取得した。同年10月には、この持ち株比率が10.8%に増加している。

 

2015年から2018年までに、京東は為替変動の影響を除いた実質ベースで年率平均41.5%増という驚くべき成長を遂げている。現在、京東は中国のEC市場で約30%のシェアを占めており、トップのアリババ(50%)に次ぐ地位にある。

 

倉庫を持たないアリババと違って、京東は中国最大(おそらく世界でも最大)にして最も効率のいい物流網を運営している。実際、同社は、広大な中国のほぼ全土を対象に即日配送体制を確立しているのだが、どのように実現しているのか不思議に思う人も少なくない。その答えは「2.7」である。

 

2.7とは何か。実は同社が調査した結果、1つの地域で特定の商品がクリックされる回数が一定以上になると、それを追いかけるように、当該地域で当該商品の注文数も決まって増加することがわかった。さらに、こうした注文は、クリック数の急増から平均2.7日以内に発生する傾向も浮かび上がった。また、この注文数は、クリック数増加量の約10%に相当する点も明らかになった。

 

言い換えれば、ある商品のクリック数が平均1000回増加すると、きっちり2.7日後に注文数も100件増加するということである。京東では、この2.7日というズレについて、顧客が他の選択肢と比較したり、さらに検討したりするのに必要な日数だと判断した。

 

そこで、物流システムを刷新し、クリック数の急増を監視する機能を加えたのである。急増が記録されると指令が飛び、クリックから購入までの2.7日のうちにクリック急増地域に商品が運ばれ、実際の注文に備えて待機しているのだ。この計算が正しいとすれば、その商品を注文する顧客は即日配送で受け取れることになる。

 

京東は、このように徹底したデータサイエンスと物流体制によって、世界トップクラスの卓越したロジスティクス企業としての評価を獲得している。

 

次ページ目を覚ました小売最大手の快進撃が始まった

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