目的を共有して初めて「一つのチーム」として成立
目的を共有することでバラバラだった集団がチームになるということはとてもよくあることで、チームマネジメントの一丁目一番地といえます。私は、調剤薬局チェーンでも経験しました。
5店舗のうちの一つだけ在宅調剤処方をしている店舗がありました。15年前のことになりますが、設備投資と維持費がかかるためなかなか利益が出ず、当時は在宅調剤事業をしている薬局などほとんどありませんでした。
その店舗における在宅調剤処方は、末期ガンや難病の患者に栄養剤を届けるのが主な仕事でした。その栄養剤は大きな袋に入れられた輸液で、処方された患者に冷蔵庫で保管してもらわなければなりません。しかしかなりかさばるため、一気に届けられても困るということで当時50軒ぐらいのお宅に3人で届けていたのですが、どこの家からも週2回に分けて届けてほしいといわれていました。当時の調剤報酬制度の関係で、それは無報酬で行わざるを得なかったためだんだんと赤字がかさむようになりました。
そして本社の結論としては撤退することになり、私がそのことを伝えに行きました。すると、Aさんという中堅の薬剤師さんが私を待ち受けていました。
Aさんは私を無菌室に連れて行き、冷蔵庫に大量に貼られている子どもと親の写真を見せ、「あなたはこの子たちを見捨てるつもりですか!」と怒鳴りました。在宅調剤からの撤退によってどれだけの患者が困ることになるのかを私に示したのです。
Aさんの気持ちはよく分かりましたが、良いことをしているから赤字でよいとはいえません。価値のあることをしているのに利益が出ないのは何かが間違っているのです。そこで50軒のお宅を回って、なんとかならないかとお願いしにいきました。どうしてもという2軒だけは別の薬局にお願いして無報酬の配達はなくすことができました。
その後、ほかの店舗でも在宅調剤処方を行っていたので、それらをまとめる形で在宅専門の薬局を作ろうと考えました。
目的は「とにかく在宅の患者の役に立つ」ということにし、それをAさんと私を含めた4人で共有しました。私は調剤に関しては素人なのでその面では貢献することはできません。Aさんももちろんそんなことは期待していません。私は医療機関との交渉や薬剤師の採用などを全力でやることにしました。それでお互いにリスペクトできれば、4人のチームとして成り立つと思ったのです。
目的を共有しそれぞれが自分のできることに注力した結果、在宅専門の薬局を設立することができました。Aさんは当初「設立できて落ち着いたら、私は1ヵ月で辞めるからね」と言っていたのですが、その後も長らくこの調剤薬局チェーンで活躍されています。私が役目を終えて自社に帰るときには「この裏切り者!」という最高の「贈る言葉」をもらいました。
患者のためという目的を共有しそれぞれの持ち場でしっかり働いた結果、私たちはチームになれました。そしてチーム力を発揮することで目標を達成できたのです。