(※写真はイメージです/PIXTA)

チームパフォーマンスを高めるには、どうすればよいのでしょうか。今の時代、「やれ!」と指示・命令されて喜んで動く人はいません。必要なのはメンバーの力を引き出すマネジメントです。また、既存の成功事例にならうベストプラクティス(最善慣行)やTTP(徹底的にパクる)という言葉も聞かれますが、人真似をして成功するのであれば誰も苦悩しません。チームパフォーマンスに関する研究を行う橋本竜也氏は、何(What)をやるかではなく、自分たちのチームでどう(How)やるかを考えることが決定的に重要であると述べます。

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「考え続けること」がすばらしい

心理的安全性は、メンバーから主体的な行動を引き出す心理的要因の一つであり、チーム内で自分の意見や考えを偽りなく伝えられると感じる度合いです。「偽りなく」の部分が最も重要です。

 

ハーバードビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が提唱した概念で、Google社が2015年に「生産性の高いチームに共通しているのは心理的安全性の高さだった」と発表したことで一気に世界中に知れ渡りました。

 

ある企業で心理的安全性のスコアが低いチームがありました。そこでリーダーは、「各自が率直な意見を言い合えるチームを目指す」と宣言しました。心理的安全性を大切にすることをリーダーが表明したわけです。ところがこれだけでは心理的安全性のスコアは上がりませんでした。

 

そこで「人の発言には途中で口を挟まない」「意見と人格を分け、人格を攻撃しない」などのルールを作り、ミーティングの前に読み上げることにしました。それでもなかなか効果が出ません。

 

ここでリーダーはメンバーに対して指示を与えたことに気がつき、全メンバーを集めて、どうすれば高まるのか、どんなルールがより良いのかを話し合いました。その後少しずつですが、スコアが上昇するようになりました。

 

彼らがどういう取り組みをしようとしたかよりも、まずリーダーが考え続けたことが評価できます。それ以上に最終的にはメンバーと一緒になって考え続けるようになったことがすばらしいのです。

妙案を出すことより、「みんなで考えること」が重要

みんなで考えるといっても必ずしも妙案を出す必要はありません。

 

あるコールセンターでは顧客からのクレームが多く、係員の士気が低い状態になっていました。

 

法人客ばかりのBtoB企業で顧客からのクレームをコールセンターが処理していることは営業部門の助けになっていましたが、営業からの感謝の言葉は特にありませんでした。

 

そこでコールセンターのチーム全員で話し合い、営業部門に対して「もし我々のおかげで助かっているのなら、分かりやすく率直に『助かっている』と言ってほしい」と申し入れしました。営業部門は実際に助かっていたので折にふれて感謝の声掛けをするようになり、その後コールセンターのやりがいのスコアが飛躍的に上昇したのでした。

 

妙案でもなんでもない極めて分かりやすい要求ですが、これでよいのです。

 

ポイントはリーダーが思いついて営業部門に申し入れたのではないというところです。

 

チームで話し合って、どうすればやる気が出るかを話し合った末の申し入れだから効果があったのです。

「メンバーに頼ること」がチームマネジメントの肝

リーダーがするべきことは、自ら先頭に立って改革を断行することではありません。メンバー全員がチームを良くしたいと考えるチームを作ることなのです。チームの状態や業績が良くないとき、誰かの責任ではなく、自分たちの責任ととらえるようにしていくことがチームパフォーマンス向上における最も重要な点です。

 

では、メンバー全員がチームを良くしたいと考えるチームを作るにはどうすればいいのか、それこそをチーム全体で考えればよいのです。

 

そんなことをチームメンバーに言ったら、「それはリーダーの仕事では?」と言われると心配になったかもしれません。そう言われたら「成果を出すのは確かに私の責任だ。そのためにはみんなの意見や提案が必要なんだ」と言えばいいのです。当然、リーダーとして自分自身の考えをもちそれを表明することは絶対に必要です。しかし、それが正解でなければならないわけではありません。協力を求めることを恐れてはいけません。自分一人の力の限界を認識し協力を求める人は、むしろ正直だと信頼されるはずです。

 

あなたがリーダーだとしたら、できもしないのに助けを求めてこないメンバーを信頼できないと思います。「あいつは一人で抱え込む傾向があるから、重要な仕事は任せられないな」という結論に至ります。逆も同じです。できもしないのに虚勢を張っているリーダーは信頼できないのです。あげくのはてに無意味な指示が出されたら、メンバーはたまりません。

 

信頼できないリーダーというのは勉強不足で専門能力が欠けていたり、手柄は自分のもので失敗はメンバーのせいにしたり、客先でお客と一緒にメンバーを責めたりしている者たちです。また、自分の力のなさをかくすことに躍起になる人間です。一方で困難な課題に逃げずに取り組んで、成果を出すために悪戦苦闘している人は信頼できるリーダーです。だからもっとメンバーを頼ってみてください。それがチームマネジメントの肝です。

メンバーに頼りにくい状態なら、第三者の介入が効果的

リーダーがメンバーをよく知っていてある程度人間関係のできているチームであれば、メンバーに対して頼るのも抵抗が少ないと思います。しかしメンバーが分裂、反目し合っていたり不信感を抱いているようなチームであれば、協力を仰ぐことは難しく利害関係の対立から互いに相手のせいにすることがよくあります。「相手が変わるなら自分も変わってやってもいい」などと言う人も少なくありません。

 

こういうときは第三者に入ってもらうのが効果的です。例えば人事部が仲介に入ったり、コンサルティング会社などに研修を依頼してメンバーの意識を変えたりするのもいいと思います。「誰かのせいにする前に、まず自分は何をするのかを考えましょう」「自分が変わらないといけないところは何でしょうか?」「そういうときにあなたならどうするのですか?」といった問いかけについて考えるような研修が有効です。

 

ただ第三者に頼るだけではチームは変わりません。同時にリーダーが腹をくくって「自分も変わる」と宣言します。例えばチャレンジ精神が足りないチームならどうしてもネガティブな発言が多くなる傾向がありますが、まずはリーダー自らがポジティブな発言をすることで改善の足掛かりになります。

これからの時代、「リーダーの役目」とは何か

課題の解決をチーム全員の話し合いに委ねるのであれば、欲しいのはファシリテーター(中立的進行役)であってリーダーではないという意見もあります。あるいはリーダーはファシリテーターをしていればいいと受け取った方もいるかもしれません。

 

しかしリーダーの役目はチームの目的・意義を最終決定し、チームの方向性を決めて、そちらに導くようにし、話し合いで決定できないことについては自分の責任で意思決定することです。ファシリテーターとはこの点が明確に違います。

 

ですから、進行そのものは若手に任せてもよいのです。そのほうがむしろ一人ひとりの参加意識を高める効果があると思われます。

 

またチームの方向性を決めるという点では、リーダーには目的を見出す力とあらゆる取り組みに意義付けする力が決定的に必要です。この力を養う必要があります。普段の何気ない取り組みや行動を見過ごさず、「何のためなのか」と考え続けることで目的を見出す力が磨かれていきます。

 

そして設定した目的や意義に沿った一貫した態度を示す必要があります。

 

やり方は変わっても目的・意義が変わってはいけません。判断基準が変わることになり、チームは混乱します。チームが目的・意義を見失わないようにすることが、自律的チームの基盤となる、リーダーの重要な機能です。

 

それから今すぐ対応しないといけない緊急事態もリーダーの出番です。例えば顧客が激怒しているトラブル案件で、メンバーの主体性がどうとか悠長に構えていてはいけません。上司がすぐに決断して行動を指示すべきです。トラブルが一旦収束して、原因究明や恒常対策を練るタイミングになったら、チームで考えるという平常時のスタイルに戻せばいいのです。

 

 

橋本 竜也

株式会社日本経営  取締役

 

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※本連載は、橋本竜也氏の著書『チームパフォーマンスの科学』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

TEAM PERFORMANCE チームパフォーマンスの科学

TEAM PERFORMANCE チームパフォーマンスの科学

橋本 竜也

幻冬舎メディアコンサルティング

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