(※写真はイメージです/PIXTA)

チームのパフォーマンスを向上させるには、チームの「状態」や「雰囲気」を常にチェックすることが重要です。状態や雰囲気というと漠然としていますが、チームを水槽に、メンバーを水槽にいる魚に置き換えると分かりやすいかもしれません。魚を元気に過ごさせるには、水質が悪化しないように気を付けることが重要です。濁ってくれば誰もが「水質が悪い」と理解できますが、いざ悪化してからでは手の打ちようがないことも少なくありません。この水質こそがチームの状態であり、チームの状態も、悪化する前に手を打つことが重要なのです。

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「チーム状態の悪化」はチームが崩壊する前兆

■放置すれば「全員辞職」しかねない…「明らに状態が悪いチーム」の再建

水槽の水質が悪化する、それはチームの崩壊が始まっているということです。私は29歳のときに、実際にそのような「チーム」(会社)を立て直しに行ったことがあります。5つの店舗を持つ調剤薬局チェーンの社長代行として一年間出向しました。

 

全部で60人ぐらいの薬剤師と店舗スタッフのいる会社だったのですが、社員同士が険悪な関係なのが一目で分かり、毎日のように誰かが辞表を持ってやってきます。そのまま放っておけば数ヵ月でもともといた社員が全員いなくなってしまうかもしれない、という状態だったのです。

 

私は最初に本部に行き、10人弱の社員に挨拶したのですが、誰一人挨拶を返してくれませんでした。誰も心を開いてくれないので昼食を社内でとるのも気が引けて、仕方なく公園のベンチに座ってたった一人で食べたことを覚えています。当時は今のような方法論をもち合わせていたわけではなかったので、途方に暮れることになりました。

 

■一人ひとりは会社をよくしたいと考えているが、いざ会議となると意見ゼロ

まずは個人面談をして話を聞きました。また各店舗に日替わりで朝礼をしに行きました。その際に店舗を掃除して「きれいになると気持ち良くないか?」と尋ねたのですが「私の家ではないので知りません」と言われる始末で、実際に精神的に追い詰められました。ちなみに前任者二人はこの環境に疲れ果てて続きませんでした。

 

性格の悪い人がいるわけではありませんでした。個人面談をしていると一人ひとりは会社をよくしようと思っている人ばかりだと分かりました。面談中は「実は私もおかしいと思っているんです。応援しますよ」と言ってくれるのですが、店舗ミーティングや店長会になると誰も口を開いてくれません。約束が違うじゃないかと思いましたがどうにもなりません。

 

そうこうしているうちに思いついたのが、各店舗に「本部レポート」を発行することでした。毎週月・水・金にA4用紙1枚に各社員に気づいてほしいことを遠回しに書きました。実際に現場で見たことを固有名詞等を隠して一般化したのです。

 

すると反応がありました。「まるで現場を見ているみたい」という感想を言われるようになったのです。実際に現場を見ているので当然なのですが「この人は調剤薬局の現場が分かっているのだな」と思われるようになったのです。

 

そのうち実際に私が見たことを書いていると気づいてくれるようになり、あるパート社員は「辞めようかと思っていたのですが、見てくれる人がいるので、もう少し頑張ってみます」と言ってくれたのです。ようやく手応えを感じられるようになりました。

 

3ヵ月も続けると本部レポートがファイリングされ、それをみんなで回し読みするようになっていたのです。各店舗の店長とスタッフのコミュニケーションにも「それって、本部レポートに書いてあったでしょ?」といった感じで使われるようになっていました。

 

そのほかにもさまざまな現場の支援を毎日早朝から深夜まで1年間続けた結果、最初の年の忘年会には社長と私を含めて6人しか参加者がいなかったのが、次の年には40人以上が参加するようになりました。

 

■水質もチームの状態も「悪化してから」では改善困難

立て直しに成功した今では笑って話ができますが、当時は本当に逃げ出したくなりました。そのなかで従業員と向き合って、批判も浴びながら一人ひとりの声を大事にしながら状態を少しでも良くしようと奮闘した結果だったと思っています。当時はチームマネジメントの方法論もなく、チーム状態を見える化することもできなかったので、ただがむしゃらで失敗もたくさんしました。

 

この薬局で、水質が悪化してしまった状態を改善することの大変さを身をもって体験しました。だからこそ、水質は悪化する前に手を打たなければならないと強く感じるのです。私のチームマネジメント観は、この経験に根差しているといっても過言ではありません。

リーダーとして「的確な指示」を出さなかった点も奏功

■従来では「的確な指示を出せないリーダー」は「無能扱い」だったが…

調剤薬局の例で良かったことは、私がリーダーとして「的確な指示」を出そうとしなかったことです。私自身、調剤薬局で働いた経験がないので指示したくても何もできなかっただけなのですが、それがかえって良かったのだといえます。

 

以前の日本で主流とされた「指示・管理型」のマネジメントでは、リーダーは原則としてメンバーよりも経験が豊富でその豊富な経験に基づいた対応策を立案して、部下に指示するという形になります。的確な指示ができるリーダーこそが信頼できるリーダーであり、そうでなければ無能といわれても仕方ないという雰囲気がありました。リーダーにとって部下に舐められるというのは致命的なことで、できるだけ弱みを見せないように努めていたのです。

 

しかしそのような価値観は今のリーダーを苦しめるだけになりました。現代におけるビジネス課題は過去に存在しなかったものが大半であり、その解決には経験が役に立たないからです。

 

■言うべきは、「的確な指示」より「みんなの力を貸してほしい」のひと言

これまでは的確な指示により、メンバーにやりきらせる力がリーダーには必要とされていました。組織やメンバーは、リーダーは「万能」でなければならないと考え、多くの期待をしてきたのです。

 

例えば、

●リーダーは答えを知っている、あるいは見つけださなければならない

●解決策はリーダーが考えなければならない

●リーダーには失敗は許されない

●リーダーはメンバーの価値観を一致させなければならない

 

といったことですが、このような考え方はもはや捨てなければいけません。

 

今後リーダーに必要なことは、目的を共有しメンバーの力を引き出す力です。メンバーの力を引き出すためには、率直に「この件については自分だけではよく分からない、みんなの力を貸してほしい」と言う必要があります。このようなマネジメントを私は「引き出し型のマネジメント」と呼んでいます。

 

「引き出し型のマネジメント」の反対は「指示・管理型のマネジメント」です。これまで主流だったリーダーが頑張り、リーダーが正解を示すマネジメントです。このような場合、メンバーはどうしてもリーダーに依存することになります。チームがうまくいっていないときのメンバーのセリフは「リーダーが無能だから」です。

 

一方引き出し型のマネジメントではチーム全員が頑張り、チーム全員で考えることになります。その結果、メンバーが自律的に行動するようになります。チームがうまくいっていないとき、メンバーは「自分はまだまだ貢献できていない」「自分にはまだできることがある」などと考えます。

次ページ優秀な人材を得ても、チーム自体が良くないと台無し

※本連載は、橋本竜也氏の著書『チームパフォーマンスの科学』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

TEAM PERFORMANCE チームパフォーマンスの科学

TEAM PERFORMANCE チームパフォーマンスの科学

橋本 竜也

幻冬舎メディアコンサルティング

「科学的アプローチ」でチームパフォーマンスを客観的に評価する! 一人ひとりの社員は優秀なのに、チームパフォーマンスが上がらない…。そんな悩みを抱える管理職・リーダー層に向けた、待望の一冊。 マネジメントにお…

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