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パンデミック後も、時代を超えて消費者が抱いている問いかけが少なくとも10種類ある。消費者は、この問いかけに対する答えを求めている。しかも、頂点に君臨する怪物企業やミニマーケットプレイスでは答えにならない問いかけがあるのだ。
あなたのブランドが、こうした問いかけに対して明快な答えとなれば、特定のカテゴリーでしっかり差別化ができるだけでなく、それなりに抜け目のなさもあれば、規模に似つかわしくないほど大きな売り上げと利幅を確保する収益力も発揮するはずだ。
「透視能力者」型
■消費者の問いかけ「自分のことを一番理解してくれているのは誰?」
「『スティッチフィックス』から送られてきた箱を開けてジーンズを取り出したとき、いかにも今風のアルゴリズムにしてやられたなぁと思える高揚感と不安感が入り交じっていた。(音楽配信の)スポティファイから自分の好みにぴったりのブルース曲がおすすめプレイリストに送り込まれていたような、そんな感覚である」
ビジネス誌『ファストカンパニー』の記者、ローレン・スマイリーは、オンライン衣料販売「スティッチフィックス」からおすすめアイテムを詰め合わせた「フィックスボックス」が初めて届いたときの体験をこのように記している。
2011年にハーバードビジネススクール卒業生のカトリーナ・レイクが創業したスティッチフィックスは、世界トップクラスの収益性と知名度を誇るネット生まれの企業だ。実際、同社は、2014年に黒字に転換し、2019年の純利益は3690万ドルに達する。
コンセプトはシンプルだ。客は最初にかなり細かいアンケートに答えなければならない。これを基に、スティッチフィックスは、客のサイズや好みのスタイルを特定する。スティッチフィックスでは、データサイエンス、機械学習、人間のスタイリスト3900人を総動員して、個々の客におすすめの衣料を詰め合わせたボックスを送る。
このボックスを、同社では「フィックス」と呼んでいる。客は、気に入ったアイテムを受け取り、気に入らないアイテムは返却できる。同社はこの受け取りと返却の実績データを基に、次に発送するアイテムの予測精度を向上させる。「フィックス」ボックスのオーダーを重ねるたびに、自分好みのスタイルにますます近づいてくる。
現在、同社は、300万人を超える常連客を抱え、取り扱いブランドは700を超える。
だが、スティッチフィックスの根底にあるのは、少なくとも従来の意味での小売業者ではない。データ会社なのである。スティッチフィックスでは、各アイテムの説明や製品特性・サイズから、顧客ごとのおすすめ内容に至るまで、データがすべてなのだ。同社内部のOTB(在庫量に応じた仕入れ量の調整)プロセスや再仕入れのタイミングでさえ、アルゴリズムで指示が飛ぶため、スティッチフィックスでは、業界平均をはるかに上回る在庫回転率を一貫して達成できている。レイクが言う。
「社風にデータサイエンスが織り込まれているのではなく、データサイエンスこそが社風なんです。当社事業はそこから始まったのであって、普通の組織構造に後づけで加えたわけではありません。そして顧客と顧客ニーズを中心に据えて、当社のアルゴリズムを開発しました」
すべてがアルゴリズムに基づいていて、毎日、このアルゴリズムに新たなデータが供給されればされるほど、時間とともに精度も上がっていくというわけだ。同社のアプリには、「スタイルシャッフル」というミニアンケート機能がある。毎日、衣料品数点の画像が表示され、これに簡単に良しあしの評価ができるものだ。このようにして顧客の声を常にすくい上げる仕組みを整えることで、顧客の嗜好を予測する膨大な知見が蓄積されていく。
データサイエンティスト1人を採用するかどうかでさえ、依然として多くの小売業者が考えあぐねているなか、スティッチフィックスは、80人のデータサイエンティストを確保していて、その多くは神経科学や数学、統計学、天体物理学などの分野の博士号を取得している。そもそも会社の構造上、事業の中核でデータ利用が大前提になっているスティッチフィックスは、「透視能力者」型の小売業の守護神と言える。
「透視能力者」型の小売業者は、テクノロジーや人間の直感を駆使して顧客のニーズや嗜好、欲求を予測する。顧客の購入履歴だけを材料に、あまり顕在化していないおすすめを一方的に提示するブランドと異なり、「透視能力者」型は、データ共有を前提に顧客との開かれた関係を築くから、顧客ニーズを正確に予知できる。顧客からの情報が多いほど、おすすめの精度も高くなる。
すると、さらに顧客から情報が上がってくるようになるのだ。その結果、顧客にとっては価値が高まり、ブランドにとっては売り上げと顧客の忠誠度が高まるという好循環に入る。