なぜ病院長は「職員にとっても良い病院を作ろう」と考えたのか (※画像はイメージです/PIXTA)

年間を通して24時間断らない医療を実現するためには、相応の工夫と環境と仕組みがないとできません。職員が働きやすい病院にしなければ、目標の実現は不可能です。新病院の開設で病院長がこだわった3つの施策があるといいます。それはどんな施策なのでしょうか。※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房、2020年11月刊)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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職員の環境を整える3つの施策

■理念を実現するため、職員のパフォーマンス向上を考えた環境をつくる

 

新病院の開設あたり、理念である断らない医療の実現に向け、職員の環境を整えるためにこだわった点が3点ある。

 

第1に、多忙な仕事を進め、パフォーマンスを向上させるうえで、メンタルを整えることは不可欠である。働きやすい環境には、精神的な安らぎの場が必要である。埼玉石心会病院の石原病院長(当時)は、何よりも職員の働く環境を整えなければ、理念の実現はできないと断言する。それは、働く場だけではなく、エネルギーを蓄える場の必要性を強調している。

 

「色彩と光は、働いている人にとって明るさとエネルギーを養うことができる。救急救命を引き受け、命と向き合う職場で、スタッフは思い通りにいかずにへこむことがある。そのような時、明るい空間の中、五感でエネルギーを感じてほしい。患者を治す前に、職員がポジティブになれる場をつくりたかった。人間は、忙しいだけだと疲れてしまう。そのため、少し休めるホッとできる場所が求められる。例えば、花を見るとか太陽の下で外の空気に触れながら食事ができるとか、ちょっとしたことが必要だと考えている。贅沢したいとか大それたことではなく、ちょっとゆっくりできる空間や、リフレッシュできる時間が重要だと思っている。そういう場には、効率のよい設定はいらない。」

 

これらの思いは、職員専用のレストランに込められている。

 

石原病院長(当時)は、病院の中で一番眺望のよい場所に職員用のレストランを配置した。超多忙な中、食事をする時くらい、柔らかさとゆとりを取り入れ、リラックスできる環境を整えたいとの願いからだ。レストランに入ると、まずは、広いエリアの中に多様な座席が目に入る。座席は、ひとりで食べたい人、仲間と食べたい人、急いでいる人など、色々な状況を考えて工夫が施されている。

 

レストランは、ガラス張りになっているため、外の景色が良く見える。外は広いテラスになっていて、壮大な秩父連山や富士山が一望できる。テラス席も用意され、周りには美しい花々が植えてあり、ひと時の安らぎを与えてくれる。立て続けに救急患者を診て、重なるオペの後など、忙しい間に食事をとる時、この景色はエネルギーをチャージし、気持ちを切り替える場になるであろう。

 

第2は、職員の努力を評価し、モチベーションを保たせるための重要な施策である。ここでは、職員の努力を見える化する策がとられている。職員が必ず通る職員用レストランの入り口には、様々な資格認定試験の合格者名が掲示されている。また、資格取得者への表彰や病院への貢献者にはプレゼントが用意されている。

 

人は認められるからこそ、次へのエネルギーが沸き起こる。また、石原病院長(当時)は、職員がどのような努力をして活動につなげているのか、効率だけではなく数字には出ない活動も見逃さない。例えば、救急部門では、様々な疾患の患者に対応する。そのため、医師は院内の他診療科の専門医にお願いして、自分が担当する患者を診てもらう、コンサルテーションをお願いすることがある。コンサルを受けた医師は、診療報酬には関係がないが、時間をかけて患者の治療に貢献する。これらは数字には表れない。

 

また、医師だけではなく、事務や管理部門も同じである。石原病院長(当時)は、「病院機能評価を受けるための書類を準備することは大変で、裏方で一生懸命見えないところでやってくれる人も評価したい」と話す。これら職員の見えにくい貢献も、見逃さずに評価に加味する。

 

第3は、理念の実現に向け、石原病院長(当時)は職員による話し合いの場をつくっている。また、新病院の設計や医療設備・機器の導入にあたっては、現場の意見が汲まれており、医師や職員の提案が受け入れられている。医局の設計でも医師が色々なアイディアを出し、それらが採用されている。アイディアが新病院に反映され形になることは愛着につながり、モチベーションも向上する。

 

「年間を通して、24時間断らない医療を実現するためには、相応の工夫と環境と仕組みがないとできない。職員が働きやすい病院にしなければ、目標の実現は不可能である。その思いは各部署に落とし込む必要がある。これらは話し合いを持つことにより、価値観が近付いていく。共感してくれるマネージャーを通して、部下に浸透していっている。」と、石原病院長(当時)は笑顔で話す。

跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長

中央大学大学院戦略経営研究科修士課程(MBA)を首席で修了、同大学院同研究科博士課程にて博士(経営管理)取得。医療福祉専門学校の学校長を経て現職。医師会・医療機関・製薬会社等で講演活動を行う。専門は医療マーケティング論、マーケティング論、企業マネジメント論など。

著者紹介

連載「患者インサイト」患者の深層心理がわかれば医療現場が変わる

患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

杉本 ゆかり

千倉書房

「患者インサイト」とは、患者が心の奥底で考えている本音であり、医療に関する意思決定である。この患者インサイトを明らかにすることで、患者への情報提供や情報収集など、患者との効果的なコミュニケーション理解できるよう…

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