年間救急車受入数9000件超…救急医療に取り組む病院の日常 (※画像はイメージです/PIXTA)

埼玉石心会病院は「断らない医療」を掲げて、年間の救急搬送数は9,000件を超え、他院からの紹介や直接自力で救急受診する患者は2万人を数えるという。救急医療を実践する埼玉石心会病院の事例を紹介します。※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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救急搬送年間9000件超の「断らない医療」

いかなる時も断らない、患者主体の医療を理念とし、最先端の高度医療と専門性を強化した救急医療に取組み、広域の患者から信頼を受け、急成長を遂げている。年間の救急車受入数は9,000件を超えており、その受入れ体制は、米国のER(Emergency Room:救急救命室)を見るようだ。救急疾患を総合的に治療する病院の事例を紹介する。

 

■はじめに

 

救急車が地域の大動脈である国道を曲がり、けたたましいサイレンを鳴らして病院に入ってくる。敷地に入るタイミングで、ER専用ガレージの巨大なシャッターがゆっくりと上がり、救急車はガレージの入口を潜り抜け救急搬送口の前で止まる。そこで待機していた医師と看護師は、救急隊員とともにストレッチャーに乗ったままの患者と一緒に建物の中に駆け込んでいく。

 

数分するとまたサイレンの音が鳴り響き、その音はこちらに近寄ってくる。さらにもう1台、救急車が急患を運んでくる。医師達は今日1日で何人の救急患者を診るのだろうか。ER専用ガレージは、一度に救急車8台が入れる駐車スペースが備えられており、車から患者とストレッチャーを降ろす際、雨風がしのげるようになっている。

 

救急搬送口から病院の中に入ると、救急救命室の規模の大きさと最新の設備に驚く。ここは米国のER を見ているような、最先端の救急救命の場である。医師が速やかに救急患者を診断できるよう、搬入口のすぐ近くには初療室と検査室が設けられている。配置は、搬入口から初療室を経て11室ある手術室まで円滑に移動できるよう、導線にこだわって設計されている。ここでは災害などでの患者搬送を見据えて、屋上にはヘリポートが用意されている。

 

埼玉石心会病院は、「断らない医療」「患者主体の医療」「地域に根差し、地域に貢献する医療」を理念とし、患者に安心してもらうための高度な医療を提供している。

 

この理念を実現するため14の活動方針が定められており、第1方針では、「救急患者さんは、いかなる時も断ることなく受け入れます」を掲げている。方針どおり、可能な限り救急患者を受入れ、年間の救急搬送数は9,000件を超え、ウォークイン患者(他院からの紹介患者や直接自力で救急受診する患者)は2万人を数える。

 

1日当たりに換算すると100人近い救急患者を受け入れていることになる。1カ月の救急車受け入れ台数は750件を超えており、救急車応需率は99.7%と驚異的な受け入れ実績により理念を実現させている。

 

埼玉石心会病院の総司令官である病院長は、脳血管内治療指導医の石原正一郎氏(当時)。石原病院長(当時)は、学会専門医制度の1期生として経験を積み上げ、手掛けた脳血管内治療は、優に2,000例を超えている。なかでも難しい脳動脈瘤の治療に積極的に取り組んできた、脳血管内治療のエキスパートである。

 

順天堂大学医学部脳神経外科に入局し、防衛医科大学校、埼玉医科大学国際医療センター脳神経外科教授を経て、埼玉石心会病院の新病院(新築移転)開設にあたり病院長に着任した。石原病院長(当時)は、いままで長年、大学病院、大学組織で要職を経験してきた。大学病院では、大規模な組織のなかマルチタスクをこなし、研究や教育に多くの貢献を残してきた。

 

石原病院長(当時)は次のチャレンジとして、臨床現場において、一貫して患者にとって最善の治療を考えて、自分の理想を追求したいとの思いから着任を決めた。石原病院長(当時)のその姿は穏やかな紳士そのものであるが、インタビューが始まると、目指す新しい理想的な医療の実現に向けた情熱が溢れ出ている。

 

新病院の建物には、理念を実現するための石原病院長(当時)の思いがきめ細かく映し出されている。理想の医療をかなえる城には、最先端の機能と設備が整っている。こだわりの原点は、患者を治すことへの思いと、病院を支える職員の環境を整えることである。石原病院長(当時)は、「患者の病気を治すことに対して、やれることは全部やる。そのためには、職員が実力を発揮できる病院にしなければ患者の病気は治せない。ここは年間9,000件の救急車を受入れており、すごく忙しい病院である。

 

医師をはじめ職員は本当によくやっていて、その人達が疲弊したり気分的に何かと前向きになれなかったりすると、最終的には患者に響く。職員が元気ハツラツ張り切って、患者をお世話できる精神状態にいてくれることが重要だと思っている。患者を治す前に職員がポジティブになれる病院をつくらなければいけない」そう強調する。

 

本稿では、理念を踏まえた石原病院長(当時)の理想的な医療への思いと、医師をはじめとする職員がベストパフォーマンスを出し、24時間断らない高度な救急医療を実行するための環境と仕組みを探る。

跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長

中央大学大学院戦略経営研究科修士課程(MBA)を首席で修了、同大学院同研究科博士課程にて博士(経営管理)取得。医療福祉専門学校の学校長を経て現職。医師会・医療機関・製薬会社等で講演活動を行う。専門は医療マーケティング論、マーケティング論、企業マネジメント論など。

著者紹介

連載「患者インサイト」患者の深層心理がわかれば医療現場が変わる

患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

杉本 ゆかり

千倉書房

「患者インサイト」とは、患者が心の奥底で考えている本音であり、医療に関する意思決定である。この患者インサイトを明らかにすることで、患者への情報提供や情報収集など、患者との効果的なコミュニケーション理解できるよう…

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