(※画像はイメージです/PIXTA)

世の中には良い違いと悪い違いが存在するのでしょうか。格差を減らそうと均一を求めすぎると別の格差が生まれます。多様さは格差を生じさせにくく、実は生きるのが楽だといいます。なぜ均一は生きにくいのでしょうか、精神科医が著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)で解説します。

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なぜ均一な住宅街は生きづらいのか

長く団地の役員を務めてきた中堅企業の人事課長は、ある日自分が夜眠れず朝起き上がることができないことに気づいた。真面目な執着型で10命じられたら12こなすタイプで、使う側は都合がよいので、風当たりの強い管理職に抜擢された。

 

彼は常にルールに忠実で、ゴミなどの処理にも神経を使い、団地の公園をうろつく不審者にも目を配る。自治会のルールを厳密化し、各戸に一定のノルマを課し、団地生活の均一化を進めた。

 

会社においては、残業代が出ない管理職なのに、職員の健康管理ややりがいある職場づくりに気を配り、さまざまなマニュアルを作り、遅くまで社内に残っていた。職場が慢性的な人手不足だったからでもある。

 

しかし、辞めていく若手社員は後を絶たず、自責の念にかられていた。窓口業務に雇った25人の新規採用者のうち3人が、クレーマー対応で体調を崩し、診断書を出して休職となり、さらに2人が半年もたたないうちに退職した。部長から人事担当として配慮が足りないと咎められ、激しく落ちこんだ。そして、初めて彼自身が診断書を受け取る立場から、提出する側に回ることになった。

 

彼は会社を長く休むことになったが、彼が最も苦痛に感じたのは、医師が勧めた日中の散歩だった。日中、彼が街を歩けば、団地内の顔見知りと、必ず出会う。働き者の自治会長であった彼が、仕事をしないでうろつけば、人さらいと怪しまれかねない。

 

しかし、暗い顔をした、いい年の夫が、朝から家の中にいたら、たいていの妻はいら立つようになる。引きこもりっぱなしにもなれないのだ。

 

中流住宅街に住む家族は似通っていないだろうか。夫は毎朝会社に出かけ、せいぜい2人の子供の高い教育費のために妻もパートに出る。近隣との交流は少なく、コミュニティーは育たないが、生活様式やレベルはさほど違わない。私は似たような住宅が並ぶ住宅街や、こぎれいなマンション群が好きでない。

 

そこではフーテンの寅さんは不審者と間違われるだろうし、疲れ果てた男たちが散歩することもできない。そこに住むには一定以上の収入が必要であり、秩序を守るのにもかなり神経を使う。そして、ひとたび、その枠から外れると、実に住みづらい街になってしまう。

 

私は偏差値の高い大学、ほとんど落ちこぼれが行く大学など、いくつかの非常勤講師を務めている。中でも、社会人枠を設けた短大の講師が楽しい。生徒層が均一でないからだ。ダメな夫と子供のために資格を得ようとしている主婦、会社で失敗して失職した中年男、キャバクラで働くシングルマザー、高校までは不登校だった若者、パニックでリストカットする娘。みな同じクラスメートである。

 

偏差値の高い均一な生徒で構成される大学は、出席率は半分ぐらいで2割ぐらいは期末試験に出てこないし、退学者も少なくない。一方、短大では生徒は予想以上に授業に出席し、試験も受ける。授業料は安くないが、それだけが出席率がよい理由ではあるまい。

 

そこでは落ちこぼれの大人が落ちこぼれそうな若者に人生を語り、キャバクラママは、元彼と今彼との間で悩む若い同級生の相談に乗ったりしている。多様さは格差を生じさせにくく、結構、生きやすいのだ。格差を減らすと称して均一を求めすぎると別の格差が生まれる。均一な住宅街は生きづらいのである。

 

遠山 高史
精神臨床医

 

 

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※本連載は遠山高史氏の著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

シン・サラリーマンの心療内科

シン・サラリーマンの心療内科

遠山 高史

プレジデント社

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