(※画像はイメージです/PIXTA)

なぜ人は地位が上がったり権力を持つと時と場合を無視して怒りを爆発させるのでしょうか。これは誰にでも起こりやすいもので、特に権力を握ると怒りを発散しはじめます。そして、どんどん子供っぽくなっていきます。それはなぜでしょうか、精神科医が著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)で解説します。

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人は権力を握ると怒りを発散しはじめる

■幼稚な選良が生まれる理由

 

某衆議院議員の「暴言」による退場は、暴君と化したエリートのもとでストレスに耐え、怒りを殺して仕事をしてきた人たちに元気を与えたのではないか―。東大法学部を出ても、大人もどきの「子供」がいることがわかったからだ。自分は頭がよいと憚らず言ってのけ、耳を覆う激高ぶりからも幼稚さが覗く。

 

今どき録音されるであろうことに思い至らなかったのは、自己中心的で他人を舐めていたからだろう。おそらく、彼女は失敗したことがあまりなく、そういう意味で人生経験が足らず、大人になり切れなかったのである。厚労省キャリアになりハーバード大に留学しても、人が成長して大人になるのとは、話が別である。

 

私はすでにかなり高齢であるが、これまで致命的な失敗を犯すことなく、何とか潜り抜けてきたようだ。それは私が優秀であるというより、そもそも軽率なうえ、多くの失敗を重ねてきたからではないか。そんな気がしてならない。

 

例えば中学3年の時、運動神経のいい生徒会会長と副会長に唆かされて、皆に気合を入れると叫んで、2階の理科室の窓から庭に飛びおりるパフォーマンスをした。先に降りた2人は無事に土の上に軟着陸したが、私はマンホールの蓋の上に降り、足を骨折した。

 

その格好の悪さは、私の心に生涯癒えぬ傷を残した。「ツキ」に見放された私は高校受験をしくじり、その後も試験に一発で合格したことがない。それでもしぶとく生き延びたお陰で、何とか医者にはなれた。

 

歳月がたった後、医学論文を書くために語学試験なるものに挑戦したことがある。これまですべての試験に1度も落ちたことのない同僚と受験に臨んだ。人生の道すがら、どうにも敵わない頭のいい奴に出くわすことがある。彼は常に私の先を行く俊才だった。

 

ところが、当日の試験問題は予告なしに2倍の分量の英文が出題され、例年と同じ制限時間で解かなければならなかった。大した語学力がない私は、ハナから訳していたら追いつかないので、思い切って斜め読みして、6割の水準を狙った。結果、劣等生の私が通り、秀才は人生初めて苦杯を舐めた。彼は最初から丁寧に訳していったため、時間切れで6割に到達しなかったのだ。

 

彼は、なぜ、状況に合わせて作戦を変えなかったのか。これまで1度も試験に落ちたことがなかったからではないか。自信家の彼はひどく落ち込み、私ごときが合格した試験に落ちたことが許せなかったようだ。

 

以来、私より何倍も早く論文を書けるはずの同僚が、英語論文に挑戦することはなかった。1年後に同じ試験を受ければいいのにと思うのだが、プライドの高い秀才の心には、大人になり切れない、意固地な子供っぽさが宿っていたのではないか。

 

幼き頃、田舎の祖母に、どうしたら大人になれるか、聞いたことがある。「失敗するたびに大人になれるが、失敗した後で何もしねえなら、子供のままだ」と言われたのを覚えている。

 

突然、鬼のように怒りを爆発させる行動は、精神的な疾病もありえるが、状況に合わせて制御できるなら病気とは言わない。

 

しかし、往々にして人は権力を握ると、時と場合を無視して、怒りを発散し始める。権力者は、あらゆる失敗を他人のせいにできるからだ。そして、どんどん子供っぽくなってゆく。いずれ修復不能な失敗を招き、すべてを失うほどの致命傷を負うことになる。 

 

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※本連載は遠山高史氏の著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

シン・サラリーマンの心療内科

シン・サラリーマンの心療内科

遠山 高史

プレジデント社

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