(※画像はイメージです/PIXTA)

世の中には良い違いと悪い違いが存在するのでしょうか。格差を減らそうと均一を求めすぎると別の格差が生まれます。多様さは格差を生じさせにくく、実は生きるのが楽だといいます。なぜ均一は生きにくいのでしょうか、精神科医が著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)で解説します。

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朝焼けと夕焼けの「赤」は違う

納期が迫るとSEは深夜まで仕事をしなければならない。24時間営業のコンビニの店長も突然休んだバイトの穴埋めで徹夜する。仮眠の取れない介護施設の夜勤職員。終電後に工事する鉄道会社の保線員。もちろん、放送局や新聞社も夜が非常に遅い。かかる仕事をする人々の睡眠リズムが狂いやすい。

 

イベントの舞台装置は、前夜にセットしなければならないし、映像制作スタッフは早朝深夜に街頭を歩き回る。航空券や深夜タクシーの手配に走るマネージャーは、タレントが寝ている時も居眠りできない。お受験を控え1カ月も学校を休んで夜10時まで塾通いをする小学6年生。その子を迎えに行く母親も、子供たちが帰ってから成績表や行事予定表を作る教員たちも、早く眠れない。

 

飛び降り自殺が多いので窓を塞いだと噂される「不夜城」の某省で働く30代の職員。早朝勤務の後、家事をこなしてから、その日の最終バスの運転に出かける女性もいる。閉店後も帰れないスーパーやファミレスの現場責任者などなど、眠れない来院者の顔を思い浮かべたらきりがない。

 

彼らが眠りにつくのは、例外なく24時を回り、朝6時には起きなければならない。睡眠時間は、多めに見ても3〜4時間である。

 

「気力が急になくなった」「下痢や便秘がひどい」「低体温で冷える」「いらいらする」「頭痛やめまいがする」と、諸々の症状を訴え、さまざまな検査を受けるが、「異常なし」「心療内科に行け」と諭される。

 

訪ねてくる人たちは、初めは不眠を訴えないことが多いが、質のよい睡眠を7時間程度、しかもきちんと夜眠ると、ほとんどの症状が消える。そこで一番困るのは、たとえ早く帰宅しても、頭が冴えて24時を回らないと、寝付けなくなっていることだ。

 

人は安全と安心を求めて文明を高度化させてきたが、そのこと自体がせわしなく複雑な手続きを生み、些細なことに厳密さを求める大量の情報により、慢性的緊張を強いられる。緊張の持続は人々を過覚醒状態に追いやり、質のよい眠りを奪う。

 

田舎の祖母は小さな私に言った。朝焼けと夕焼けの赤色の違いを知る娘は丈夫でよい嫁になる、と。清少納言も曙を愛でているが、日が沈むとともに寝て暁闇に起き、透明な闇を感じてこそ、日の出前の黒い街並みの上の澄んだルビー色に気づくことができる。引きこもったゲーム少年は朝寝て夕方起き、深夜コンビニに行くが、夕日の沈む時と日の出の空の赤色の違いがわからないだろう。

 

ある日、恋人に振られて落ち込んだパン屋で働く娘がやって来た。パン種の仕込みは朝が早い。だから、毎朝5時に起き、2キロの道のりを東のルビー色の空を眺めながら歩いて仕事場に向かうという。

 

一方、SEの彼氏は深夜に帰り、朝は寝ているから、すれ違いが重なり、彼女への関心が希薄になったようである。おそらく彼氏は疲弊していたに違いないが、神が宿る暁闇に目覚め、2キロも歩く彼女の睡眠の質は、すこぶるよさそうである。「ルビー色の空は幸運の色だから、いずれよい出会いがある」と、祖母の話を脚色して話したら、薬なしで笑顔を取り戻した。もともと元気だったのだ。

 

100年前は、アメリカ人も日本人も夜9時間寝ていた。「睡眠力は幸福力」と漫画家の水木しげるは言ったが、短く質の悪い睡眠しか取れず、寝るべき時に眠れない今どきの人々は100年前より不幸である。悲しい哉、依存性のある睡眠薬を、しこたま飲み続けることになる。 

 

次ページなぜ均一な住宅街は生きづらいのか

※本連載は遠山高史氏の著書『シン・サラリーマンの心療内科』(プレジデント社、2020年9月刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

シン・サラリーマンの心療内科

シン・サラリーマンの心療内科

遠山 高史

プレジデント社

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